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“ポイ活”でも中国にボロ負けする日本。行動経済学者も注目する戦略的クーポン設計とは?=牧野武文

精密に練り上げられた中国のクーポン設計ロジック

中国のマーケティング担当者がクーポン企画を立てた場合、必ずその企画のねらいを尋ねられます。そのクーポンによって、客数を上昇させようとしているのか、客単価を上昇させようとしているのかなどです。さらに過去のデータがあるわけですから、それを分析して、どの程度目的の業績数字を上昇させるのかも説明しなければなりません。「客単価を5%上昇させるために、予算xxx元を投入する」という状態になって、上司や経営者はその企画を実行するかどうかを判断します。

そのため、クーポンの設計ロジックは非常に精密です。もちろん、そのロジック通りに消費者が行動してくれるとは限りませんが、ロジックを精密に組み立ておかないと、効果測定ができません。精密なロジックがあれば、それが思惑と外れたとしても、効果測定が可能となり、次の企画に役立てることができます。

ゲーミフィケーションや行動経済学の理論を取り入れたクーポン

さらに、最近では、ゲーミフィケーションや行動経済学の理論を取り入れたクーポンプロモーションも行われるようになっています。

今回は、一般的なクーポン発行のロジックをご紹介し、今年になって、フードデリバリー「ウーラマ」が行って大きな成果をあげている行動経済学的なクーポンプロモーションの例をご紹介します──(中略)

小売店のクーポン設計の基本戦略

一般に小売店がクーポンを設計する場合、異なる価格帯の低中高という3種類の満減券を発行し、異なるねらいを持たせるのが一般的です。

わかりやすくするため、定食を中心とした飲食店を考えます。定食は30元前後で、普通はこの定食を注文します。そして、春巻きなどのサイドオーダーが10元前後だとします。

低額クーポン

低額クーポンは客数を増やすのが目的です。この店の一般的な定食は30元前後なので、この価格をクーポンで割引をし、安く感じさせ、多くのお客さんにきてもらうことが目的です。そのため、まだ利用をしたことない新規顧客、そして、一定期間利用がない非アクティブな顧客に集中をして配布をします。

この飲食店では、いちばん安い定食が28元でした。低額クーポンは28元未満、例えば「満25減xx」に設定します。

これが例えば、「満25減10」に設定したとします。しかし、これではじゅうぶんでありません。好ましいのは「満20減10」です。28元の定食を注文した場合、どちらのクーポンであっても18元を支払うことになり、同じことなのですが、心理的な割引率が違うのです。「満25減10」は割引率は10/25=40%ですが、「満20減10」は10/20=50%になります。後者の方が、消費者は得だと感じてくれるのでクーポンに反応する率が高くなります。

では、もっと進めて「満15減10」にしたらどうなのか。こうなると、今度は32元の定食に対して、クーポンを2枚使われてしまいます。これは好ましくないので、低額クーポンは最低客単価とその1/2の間に設定をし、客数の増加をねらいます。

中額クーポン

中額クーポンは定食にプラスしてサイドメニューを注文させ、客単価を上昇させるのが目的です。しかも往々にしてサイドメニューというのは利益率が高いため、利益率の改善もねらえます。

このクーポンは定食の最高額よりも高くする必要があります。そうしないと、定食を食べるのに使われてしまうからです。そして、定食の最低額+サイドメニューの合計価格よりも低くします。これで、定食+サイドメニューで使えるクーポンとなり、サイドメニューを注文してくれるようになります。飲食店のサイドメニューは往々にして利益率が50%近いものが多いので、全体の利益率も改善されます。

高額クーポン

高額クーポンは1組客数の増加をねらいます。一人の客は無駄なサイドメニューや飲み物はあまり注文しません。しかし、二人以上の客はサイドメニューや飲み物を注文してくれるようになります。結果として、一人あたりの客単価を上げ、利益率を高くすることができます。

これも最高価格の定食+最高価格のサイドメニューの合計金額よりも高く設定して、1人で定食+サイドメニューを注文した時には適用できないようにします。一方で、最低価格の定食2人分よりも安く設定して、複数人できた時に利用できるようにします。

この3種類のクーポンを図解したのが次の図です。赤丸が「満」の金額、矢印の先が割引後の金額になります。

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▲クーポンの設定額は適当に設定されるのではなく、自店舗の価格分布から、どの業績数字をあげるのかを明確にして、クーポンを設計していく。

赤丸より上のメニューに対して、クーポンが適用できます。

左の低額クーポンは、サイドメニューだけの注文には使えませんが、単品料理には使えます。これにより、1人の客、新規の客がくるようになり、客数を改善することができます。

中額クーポンは、単品料理には使えませんが、料理+サイドメニューには使えます。これで1人の客にサイドオーダーをすることを促し、客単価の上昇と利益率のアップをねらいます。

高額クーポンは1人の客は使うことができません。複数人で来店するとようやく使えるようになります。これにより1組の客数を増やすことをねらい、大人数ゆえにサイドメニューや飲み物の注文数アップをねらいます。

今でも、例えば美団外売などのフードデリバリーのアプリを見ていただければ、ほとんどの飲食店が3種類から4種類程度の複数の金額が異なる満減券クーポンを発行していることがわかると思います。これは適当に設定しているのではなく、このようなロジックを考えて設計をされています。

もちろん、思惑通りいかないこともあります。その場合は、クーポンの設計を改善していけばいいのです。重要なのは仮説を立てて設計をし、実際のデータを見て、仮説を修正していくことです。

先ほど触れたように、最近ではこのようなクーポンに頼らない店舗も増えています。特に小売店の場合、ライブコマースなどで大幅割引をするために、クーポンの効果が薄れてきています。

Next: 行動経済学者の注目の的となったゲーミフィケーション的なキャンペーン

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