fbpx

“ポイ活”でも中国にボロ負けする日本。行動経済学者も注目する戦略的クーポン設計とは?=牧野武文

日本でも様々な企業が自社サービスの利用促進のために、クーポンやポイント還元をしていますが、中国ではもっと大規模に予算を使ったプロモーションを実施しています。今回はその中でも、行動経済学を活かした中国のユニークな最新キャンペーンを紹介します。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

【関連】中国で「わりかん保険」が大流行。治療費払い渋り防止の斬新な仕組みとは=牧野武文

【関連】中国で「無人タクシー」が日常風景へ。なぜ日本の自動運転技術は勝てない?=牧野武文

※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2022年10月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

ロジカルに大量のクーポンを配布する中国企業

みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。

今回は、クーポン戦略についてご紹介します。

さまざまなネットサービス、チェーン店舗、決済事業者が、利用を促進するためにクーポンを配信したり、ポイントを還元したりするのは、どの国でもあたり前になっています。

中国では「焼銭大戦」という言葉があるように、新しいサービスが登場すると、大量にクーポンを乱発して、お金で新規利用者を買うことが珍しくありません。このような状況から、プロモーション技術が遅れているかのように感じている人もいるかもしれませんが、実際のクーポン設計を見ていると非常にロジカルです。

このクーポンを発行して、客数、客単価などの業績指標をどの程度上昇させるのかということをしっかりと考えて設計されています。

もちろん、現実ですから、思惑通りにはいかないことの方が多いでしょう。でも、それで、データが取れるので、それを次のクーポン設計に活かしていきます。

行動経済学を取り入れた中国の戦略的キャンペーン

一方、現在では、クーポン発行があたりまえになりすぎて、効果が薄れてきているとあちこちで言われます。すると、今度はフードデリバリーのウーラマが、行動経済学の考え方を取り入れたユニークなキャンペーンを始めて、話題になっています。

今回は、どのようなロジックでクーポン設計をしているのかをご紹介し、ウーラマのユニークなキャンペーンについてご紹介します。

クーポンは一般的に「5%割引」や「20円割引」などの(今日では)電子アイテムで、ECなどのアプリで決済時に適用することで優待割引が受けられるものです。Yahoo!やLINEでは毎日にようにクーポンを配り、PayPayのような決済サービスでも毎日のように配っています。また、ブランドの専用アプリでも配信されることが多く、もはや珍しいものではなくなっています。

当然ながら、中国のECやサービスなどでも同様のクーポンはたくさんありますが、クーポンの面でも中国は進んでいます。と言っても、進んでいるから優れているとも限りません。クーポンがあまりに複雑になってしまって、随分前から「クーポン疲れ」を口する人が増えています。

そこにピンドードーやライブコマースなどのように思い切った価格で販売をするサービスが登場してきたために、以前のようなクーポン熱はなくなっています。しかし、非常に戦略的にクーポンを設計しているため、学べるところは多いかと思います。

日本のクーポンの現状

日本のクーポンは、ほとんどの場合、次の2つのいずれかです。

1)割引クーポン:特定の商品の購入数を上昇させることをねらう

2)初回割引クーポン:新規顧客の獲得をねらう

新しいサービスの場合は、初回割引クーポンで1,000円、2,000円といった大きな割引をし、新規顧客を獲得し、その後、50円程度の割引クーポンでアクティブ率(アクセス回数、購入回数)をあげることをねらうというパターンが多いように思います。

中国のクーポン戦略の特徴

中国のクーポンは、これらに加えて、次のような違いがあります。

1)満減券が多い

満減券とは「200元以上使うと30元割引」のようなタイプのクーポンで、購入金額が190元であった場合は適用されません。そこで15元ぐらいの商品をついでに購入して、合計金額を205元にし、クーポンを適用して、175元を支払うというようなことをします。

余計な商品を買った方が得になる場合があり、さらには他のクーポンと併用できることもあり、どのクーポンを使ったらいいかは悩みどころになります。バーゲンセールの時は、このクーポンの適用を考えるのがゲーム的で楽しいという人もたくさんいましたが、今ではかなりの人が面倒に感じるようになっているのではないかと思います。

ただし、クーポンを発行する側からすると、クーポンの組み合わせ方で業績数字を制御できるため、サービスの運営にはクーポン戦略を考えることが今でも必須になっています。

2)配信ではなく、取りに行くクーポンが多い

日本のクーポンはアプリに配信されてくるパターンが多いですが、中国のクーポンは指定されたURLに取りに行くパターンが多いように感じます。これは重要です。なぜなら、リンクを友人にも教えてあげることが普通に行われ、そのことがキャンペーン情報の拡散につながるからです。配信をしてしまうと、使わない人は使いませんし、配信されたことに気がつかない人もいます。

確かに「クーポン配信数」の数字は大きくすることができますが、この数字は重要ではありません。重要なのは、クーポン取得数とクーポン使用数、その比であるクーポン使用率などです。

配信をした場合、クーポン取得数は大きくなるものの、使用数は大きくならず、しかも、アクティブでなかったユーザーを掘り起こす力も弱く、結局、いつも購入してくれるアクティブユーザーが定期的な購入をする中で割引を受けるという、効果の薄い結果になってしまいがちです。アクティブユーザーの離脱率をある程度下げる効果はあるかもしれませんが、アクティブユーザーは普通は離脱をしないもので、非アクティブユーザーが離脱予備軍であるわけですから、ここに対処していくことの方がはるかに重要です。

もちろん、日本のマーケティング担当者も、クーポンだけでなく、全体の戦略を賢明に考えており、その中でクーポンの貢献度がさほど大きくなく、他の方法と併用することで成績数字を確保しようと考えられているのだと思います。

一方、中国の場合は、クーポンが果たす役割が大きく、どのサービスでもクーポンに対してさまざまな戦略、手段を練っています。

ただし、その副作用として、クーポンが複雑になり、面倒に感じる消費者が出てくるという問題があります──(中略)

Next: 行動経済学理論を取り入れ、精密に練られた中国の最先端クーポンロジック

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー