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“ポイ活”でも中国にボロ負けする日本。行動経済学者も注目する戦略的クーポン設計とは?=牧野武文

フードデリバリーの「ウーラマ」のクイズクーポン

このような状況の中で、フードデリバリーの「ウーラマ」が面白いキャンペーンを始めました。

それは前日にクイズを出して、そのクイズを解けた人は注文金額が無料になるというものです。クイズを解くと、3つの時刻が導き出されます。そのひとつが例えば、14:12であれば、翌日の14:12の1分間の間にウーラマでフードデリバリーを頼むと、代金が無料になるというものです。

まずどんなクイズなのかご紹介します。

8月13日の出題は、テーマが「保護動物」というもので、次のような図が提示されます。

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▲12匹の動物が描かれた出題。ここから3つの時刻数字を導き出す。

12匹の動物の絵が描かれていて、ここから3つの時刻を導き出します。動物の絵を見て、時刻を当てろと言われても途方に暮れてしまう人多いのではないでしょうか。

中国では保護動物は1級から3級までのクラスに分類をされています。1級の動物はアジアゾウなどで、図の中には3匹います。すると1級が3匹ですから、01:03か03:01の時刻ではないかと推測できます。

2級の動物は1匹、3級の動物は8匹なので、結果、2通りの答えが考えられます。

(01:03)(02:01)(03:08)

(03:01)(01:02)(08:03)

この時刻は、フードデリバリーを注文する時刻であるため、01:03は深夜の午前1時3分のはずはありません。そこで、24時間制に直します。

(13:03)(14:01)(15:08)

(15:01)(13:02)(20:03)

このキャンペーンでは、3つの時刻は、昼食時、午後、夕飯時であるという説明があるため、上の組は正解ではなく、下の組が正解になります。13時2分の1分間にウーラマでデリバリーを注文すると、その料金が無料になります。

ゲーミフィケーション的なキャンペーンのメリット

このゲーミフィケーション的なキャンペーンにはいくつもの利点があります。最もうまいのは、「無料になる」という報酬が大きいことです。額としては大したことはなくても、無料というのはインパクトがあります。

さらに問題の難易度が高いというかつかみどころがなく、一人ではなかなか正解にたどり着けないという点も優れています。多くの人が、SNSを使って、出題画像を友人知人に送り、「いっしょに考えて」とお願いをしたでしょう。このこと自体が、キャンペーン告知を拡散することにつながりました。

それでも友人の輪の中で正解にはなかなかたどりつけないため、SNSやウェブを検索する人が続出します。誰かが正解にたどりついて、正解を公開してくれていないかと考えるからです。検索する時は「ウーラマ 1分間無料 正解」などと検索をするため、ウーラマの検索回数があがります。検索回数があがるということは、ウーラマに関連するデジタル広告の表示回数も上がり、ウーラマの他の情報も検索されるため、関連ページビューが上昇します。

さらに、正解の時間が確定をしないという点もミソです。先ほどの中国医学の問題で、12:03、12:30のいずれかは誰にも確定できません。実際に注文をしてみるしかなく、ウーラマのアプリ、ミニプログラムのアクセス数はそうとうに上昇したはずです。

つまり、ウーラマのネット上の指標が大きく改善することになります。キャンペーンが終われば元に戻ってしまいますが、ウーラマの新規利用者は確実に増えることがで期待できますし、何より、利用頻度が減っていた非アクティブユーザーの掘り起こしにも大きな貢献をします。また、連日キャンペーンを行うことで、ライバルの美団(メイトワン)を使っていた人が、数日間、ウーラマを利用することで、利用者の習慣を変え、キャンペーン終了後もウーラマを使ってもらえるようになります。

無料といっても無制限ではありません。56元以内の注文が無料、つまり56元引きです。56は中国語の語呂合わせで、「我楽」(私は楽しい)になります。また、1日3回の無料注文可能な時間も、先着1万名という制限があります。つまり、ウーラマは1日のキャンペーン費用として、56×10000×3=168万元(約3400万円)をみておけばいいことになります。ウーラマはまだこのキャンペーンの効果がどれほどあったかは公開していませんが、予算規模からは中規模のキャンペーンですが、効果は大型キャンペーン並みであったことは間違いありません。

中国の行動経済学者も注目したキャンペーン

このキャンペーンの仕組みに、中国の行動経済学者たちが注目をし、さまざまな分析を発表しています。特に注目されているのが、12:03、12:30のように正解かどうかが確定できず、実際に注文してみなければならないという点です。

中国の行動経済学者たちの間では、次のような話が有名なのだそうです。香港で、市民の健康のため春に15日間のジョギング促進キャンペーンを行なっています。毎日、完走するとポイントがもらえて、後日、そのポイントを景品に交換することができます。

香港中文大学の研究チームが、この促進キャンペーンの効果を高めるため、ある実験を行いました。協力者を2つのグループに分け、Aグループには1日完走すると5ポイントが与えられます。Bグループには完走すると、3ポイントか5ポイントのいずれかがランダムに与えられます。つまり、報酬を固定するグループと、報酬を可変にするグループに分けたのです。

15日間が終わってみると、報酬が固定されたAグループの平均獲得ポイントは7.5ポイントとなりました。報酬が可変のBグループは13.9ポイントとなりました。つまり、報酬を可変にした方が、参加意欲が高まるのです。報酬が固定されると、自分の都合と報酬を冷静に天秤にかけて参加するかどうかを判断してしまいます。しかし、報酬が可変であると「今日はひょっとして多めの得点がもらえるかもしれない」という期待が後押しをして、参加意欲が強くなるのです。

中国ではこのような楽しいゲーム的な販促キャンペーンがけっこうあります。ソーシャルEC「ピンドードー」は、アプリの中で木を育てるゲームを提供し、この木を育てるにはピンドードーで指定の商品を購入し、それに伴うポイントが必要になります。木が育つと果物が成り、その果物の本物が宅配されてくるというものです。ピンドードーではこれで新規顧客の獲得と、非アクティブになっていた顧客の掘り起こしに成功しています。

Next: 中国とは規模も効果も段違い。日本の残念な低予算キャンペーン

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