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ジャノメ、直営店全閉鎖&営業部員約300人リストラに「まだ訪問販売やってたの?」の声。昨年の「湯名人」販売終了も影響か?

家庭用ミシン大手のジャノメが、2023年3月末で訪問販売事業から撤退するにあたって、直営店の全閉鎖にくわえ、それまで訪問販売を担ってきた営業部員約300人に事実上の“解雇通告”を突き付けていたと報じられ、大いに注目を集めている。

文春オンラインの記事によると、店舗閉鎖や解雇の話など一切出ていなかったなかで、全店閉鎖が決定しましたと伝えられ、来年3月31日までに直営店の従業員全員に退職してもらいます、との宣告もあったとのこと。直営店の店長は「赤字が続いている店舗を先に閉めるなど、他に打てる手がまだあったのではないでしょうか……」と語るなど、不満の声が広がっている模様だ。

ちなみにジャノメの直営店だが、最盛期には日本全国に541箇所あったということだが、2022年9月時点では68箇所にまで減っているという。

日本のミシン業界では伝統的スタイルだった訪問販売

約300人規模のリストラということで、それ自体もインパクトがあるニュースではあるのだが、それ以前の話として「まだ訪問販売やってたのか?」「今どき訪販なんて……」といった反応も少なからずあがっている今回の件。

古くは富山の薬売りにはじまり、現代でもクルマや宝飾品、果てはシロアリ駆除にいたるまで、訪問販売というスタイルはごく当たり前の存在だったのだが、そのいっぽうで嘘や誇張まみれの巧みなセールストークで高額な商品を買わせるといった事象が度々問題となり、さらに不意に来訪してうっかり応対すれば、なかなか帰らないといった煩わしさもあって、忌み嫌われる方がほとんどといったところ。

さらに近年では、街中でよく見かける“若者のフルーツ売り”が訪問販売も行っていたり、さらにテレビなどでよく紹介される著名店の生クリームパン等を、その店の許可なく訪問販売を行う者も現れたことが話題となったりと、「通信販売=怪しげ」というイメージもすっかり定着している感がある。

ただ、ジャノメをはじめとした日本のミシン業界においては、この訪問販売がいわば伝統的なスタイルとして、令和の時代まで続いていたとのこと。

白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫が“三種の神器”と呼ばれていた時代よりも、さらにもっと古くから家庭の必需品だったミシンだが、当時その価格は一般的な世帯にとっては相当高価な代物。代金を一括で払うことなどなかなかできなかったのだが、そんな状況に対して各ミシンメーカーが昭和20年代から始めたのが、月掛予約(積立金)や月賦といった方式を用いた販売。販売後の製品のメンテナンスにくわえ、各家庭とそういった契約を結んだりといった業務のためには、全国津々浦々の直営店とそれに付随する訪問販売員の存在は、必要不可欠だったようだ。

しかし、1980年以降の家電量販店の台頭やその後のネットショッピングの隆盛といった販売チャネルの広がり、さらにクレジット決済の普及もあって、上記のようなビジネスモデルは徐々に立ち行かなくなるように。

そんな最中には、格安なミシンの販売をエサにしたり、あるいはミシン修理を安価で行うなどと謳い、連絡してきた客のもとに販売員が訪れ、高額のミシン売りつけるといった事案なども横行。また2008年には、日本の3大ミシンメーカーのひとつであるJUKIの子会社が、訪問販売先で「修理できない」などと嘘をついたり、認知症女性にミシンを売りつけようとするなど、特定商取引法に違反する行為していたことが発覚し、6か月の業務停止命令が下されるということもあった。

さらに日本国内における家庭用ミシンの需要自体、かなり以前から落ち込むいっぽうだということで、ミシンの生産台数のデータを見ても2007年が14万1,190台だったのに対し、2019年は4万9,467台と急激な右肩下がり。2020年以降のコロナ禍においては、巣ごもり需要の一環でミシン人気が復活し、需要も幾分と持ち返したようだが、それでも過去の“一家に一台”といった時代から考えると見る影もなしといった状況のようだ。

市場の収縮で多角化を目指したミシンメーカーだが…

このように、ミシン業界全体を取り巻く状況は相当厳しくなっていることもあり、今回報じられたジャノメの訪問販売事業からの撤退、さらに訪問販売員の大量リストラという話題に対しては、“時代の流れ”で致し方なしといった見方も少なくないところ。

ただミシンメーカー各社も、国内市場が急激に収縮していくのを指をくわえて見守っていたわけではなく、ミシン一本に頼らない多角化戦略を目指していったという経緯があり、現にジャノメ・JUKIとともに日本の3大ミシンメーカーの一角であるブラザー工業は、タイプライターやファックス、さらにはプリンターなどの生産にも古くから取り組み、それらの分野でも成功しているのは誰もが知るところ。

それではジャノメはどうかというと、最近では産業用ロボットの生産で活路を見出しているようだが、そのいっぽうで一般消費者の間でよく知られていたのが、各家庭のお風呂に取り付けて使う24時間風呂の「湯名人」。1990年代にはTVCMなどもバンバン放映されるなど知名度がかなり高い製品だったのだが、同社サイトを見てみると、2021年3月末の製品在庫をもって販売終了となったという。

ミシン販売で培った直営店&訪問販売という営業スタイルとの親和性も高そうな湯名人だったのだが、人知れずひっそりとその歴史に幕を下ろしていたということで、このことも直営店全閉鎖や営業部員のリストラといった今回の顛末に、少なからず影響を及ぼしたのかもしれない。

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