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もう国民より企業優先の税金投入では日本経済は浮上しない。欧米は個人向けに経済政策をシフトチェンジ=斎藤満

同じ1万円を消費者に預けた場合と、企業に預けた場合、どちらがより効率的にこれを使うのか?この問いに対して、少なくとも日本では長年「企業」との答えがなされてきました。しかし、企業が効率的に資金を活用できなくなれば、これまでのような企業向けに傾斜した資源配分は逆効果になります。欧米はすでに個人に政策ターゲットをシフトし始めています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)※この記事は音声でもお聞きいただけます。

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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2022年9月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

長年続いた企業への優先資源配分

同じ1万円を消費者に預けた場合と、企業に預けた場合、どちらがより効率的にこれを使うのか?

この問いに対して、少なくとも日本では長年「企業」との答えがなされてきました。

消費者は1万円のうち7,000円か8,000円を消費に使うだけで、後は貯蓄に回す。これに対して企業は1万円を投資に回し、これが回転して2倍にも3倍にもなる、と考えられました。

また生産をして所得を生み出すのは企業で、消費者はそれを消費するだけなので、成長の源は企業だ、と見られてきました。

このため、政策的にも資源を極力企業に回し、企業が十分に生産、投資を拡大できる環境を作ってきました。消費者が蓄えた「貯蓄」を企業が投資に使うことで、成長が可能になると見られていました。

実際、高成長期には日銀内に「貯蓄増強中央委員会」という組織があり、国を挙げて国民の貯蓄を奨励し、企業には設備投資減税や法人税の実効税率引き下げ、などが行われ、投資を促進してきました。財源が必要になれば、消費者から「消費税」で徴求し、企業の税負担、社会保険負担は軽減してきました。

欧米に比べても、日本の企業優先政策は目立つものでした。

経済学には「パレート最適」という言葉がありますが、資源が十分に活用されている状況では、誰かに利益となる措置をとれば、誰かが損をすることになります。

政策は限られた資源を右から左に移すことで、必ず受益者と負担者が現れます。次にその具体例を示します。

大規模緩和、円安も企業向け

まず日銀の大規模金融緩和は、資金需要者である企業に利益がある一方で、資金供給者である個人に犠牲が及びます。

資金の借り手である企業(政府も)は、ゼロ金利やマイナス金利で金利負担が減少し、利益を得ます。その一方で資金を供する個人は、預貯金金利がなくなって利息収入が減り、損をします。

個人の中にも住宅ローンを借りている人がいて、彼らは金利が低下する「利益」はありますが、借り入れより貯蓄が大きく、金利低下の利益よりも金利収入が減った分がより大きくなり、長年の大規模緩和によって、大きな損失を被っています。90年代には家計の利息収入が年間30兆円以上ありました。

為替変動も所得分配、資源配分に影響します。例えば、今日のように大幅な円安が進んだ場合、輸出企業やドル資産を多く持つグローバル企業は、ドル高円安で円の手取り額が増え、ドル資産の円評価額が大きくなり、利益拡大要因となります。同じ企業でも輸入企業は円安でコスト高となりますが、通常はこれを最終段階で使用する企業や消費者に価格転嫁して、自らのコスト負担は回避します。

従って、企業部門全体では円安で利益が大きくなり、消費者はコストを転嫁され、高い輸入品を消費することになって損失を被ります。

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