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次世代半導体で日本に3つの追い風、周回遅れから一躍トップも。「技術・素材・支援体制」整い世界のリーダーへ=勝又壽良

グローバル経済で涙を飲んだ日本に逆転のチャンス

日本半導体が、衰退を余儀なくされたのは米国の圧力だけではなかった。1991年のソ連崩壊と、2001年に中国のWTO(世界貿易機関)への加入で本格化した、グローバル経済への流れだ。

ここでは、保護主義は忌避され全てが自由競争という大きなうねりの中に吸い込まれた。日本半導体は、急速な円高とバブル崩壊後に襲って来た沈滞経済のなかで、巨額の設備投資資金を調達できず、韓国の財閥企業サムスンに無念の涙を飲む結果になった。

だが、苦汁を飲まされてから25年以上経っても、コツコツと基礎研究を続けてきた日本を取り巻く環境は180度の変化だ。米中対立に端を発する安全保障の枠組変化で、30年近く続いたグローバル経済が否定される時代へと大転換したのである。

半導体が戦略物資であることから、国家の保護すべき産業へと位置づけは変わった。「風にそよぐ葦」は、国家がその風を防ぐという国家事業への昇格だ。

こうしたなかで、日本半導体は確かな足取りで動き出せる道が整えられたのである。

周回遅れからトップへ

日本は、国策事業として次世代先端半導体(2ナノ:ナノは10億分の1メートル)進出へ名乗りを上げることになった。新会社「ラピダス」である。政府(経産省)、学界、産業界などが、オール日本で取り組む起死回生事業だ。10年以上は遅れたとされる日本半導体が、5年でその遅れを取り戻して、世界半導体のトップ・グループへ名を連ねる野心的計画を発進させた。

これまで、日本の半導体業界が再編成果を上げられなかったのは、金融面での支援が乏しかったことである。いつも、金融面での支援が不十分で頓挫してきたのだ。

世界はグローバル経済であり、国家が支援することは御法度という雰囲気に満ちていた。自由貿易体制ゆえに、敢えて日本企業が半導体生産に固執しなくても良い、という時代の雰囲気が半導体再編の壁になっていたのだ。

今回の「ラピダス」は、政府補助金と金融界(三菱東京UFJ銀行)が参加することで資金面の心配がなくなった。後は、前述の半導体新技術と新素材の強みを生かし、「2ナノ」技術の壁を突破するだけである。

日米は、昨年5月に「半導体協力基本原則」を交わした。これにより、先端技術を巡る日米共同研究が決まった。米国は、日本の「ビヨンド2ナノ」(2ナノ超え)の成果に期待して「相乗り」を決め込んだのだ。

実は、半導体2ナノ世代は半導体技術の移行期にあたる。従来の半導体技術とは次元が異なるものだ。半導体各社は、「ゲートオールアラウンド」(GAA)という新たな素子構造を採用し、技術の壁を解決しようとしている。米IBMは21年、このGAA構造による2ナノ品を試作した。ただ、量産化技術を確立していないので、昨年12月に日本の「ラピダス」と技術提携して量産化を支援することになった。これによって、27年に「2ナノ」量産化は確実になった。10年以上遅れた日本半導体が、一挙にその空白期を埋めて飛躍するのだ。

日本が、次世代半導体へ進出するきっかけは、IBMが日本側へ「2ナノ」製造意思の有無を問い合わせてきたことだ。これを受けた日本が急遽、新会社「ラピダス」の受け皿をつくりIBMの要請に応えたのが真相である。

こういう経緯を経たことからも分かるように、ラピダスとIBMは一心同体と言える関係だ。もっとはっきり言えば、日米合作の半導体企業である。ただ、資本金はすべて日本側の出資である。

ラピダスとIBMは今年1月、2ナノ品を活用できる市場を共同で開拓する業務提携も結んだ。IBMがつくる高性能コンピューターで採用するのだ。特に脱炭素につながる製品で使われる見込みだ。半導体は、回路線幅が小さいほど電力効率が高まり、二酸化炭素(CO2)の排出量の削減につながる。省エネルギー型のスーパーコンピューターやデータセンターでラピダスの半導体を使うことを視野に入れている。

ラピダスは、生産規模面で台湾のTSMCや韓国のサムスンなど、半導体を大量に作る先行2社と異なるモデルを探っている。そのポイントは、数カ月を要する半導体工程の短縮である。開発段階から、「速く作るための装置を開発、展開する」としている。生産スピードを高めた製造ラインで、小ロットでも高単価品のビジネスを拡大する狙いである。

化学総合メーカーの昭和電工は今年1月、伝統ある社名を「レゾナック・ホールディングス」へ変更した。2020年に約1兆円で日立化成を買収して、半導体素材メーカーとしての発展を目指している。半導体市場は今後10年間で、年率6%程度で伸びるが、旧日立化成が得意とする半導体後工程の材料使用量も増える。シェアアップがなくても、平均で年率10%の成長が可能としている。昭和電工は、企業買収してまで敢行する半導体シフトである。

産業構造の大転換が始まったのだ。

Next: 日本の半導体産業に「神風」?脱炭素で世界のエースに

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