米国内の反発
イスラエルとパレスチナ問題に対する見方のこのような大きな変化は、アメリカ国内でも顕著な動きとなって現れている。最近起こった出来事は、これを顕著に表している。
11月14日、約40の政府機関を代表する500人以上のホワイトハウスが任命した管理職、そして一般の職員が、バイデン大統領に書簡を送り、ガザでの戦争におけるイスラエル支持に抗議した。
この書簡は、政権のガザ戦争支持に対する反対意見の高まりの一環であり、大統領に対し、ガザ地区での即時停戦を求め、イスラエルに人道支援を認めるよう働きかけるよう求めている。この書簡は、バイデン政権全体から提出された数通の抗議文のうちの最新のもので、国務省の職員数十人が署名したアントニー・ブリンケン国務長官宛ての3通の内部メモや、「米国際開発庁」の職員1,000人以上が署名した公開書簡も含まれている。この書簡には次のようにある。
「私たちはバイデン大統領に対し、緊急に停戦を要求し、イスラエルの人質と恣意的に拘束されたパレスチナ人の即時解放、水、燃料、電気、その他の基本的なサービスの回復、ガザ地区への適切な人道援助の確保によって、現在の紛争を非エスカレーションに導くよう求める」
これまでバイデン政権は、ガザのパレスチナ人への人道的な配慮の姿勢は示しつつも、ガザ攻撃をイスラエルの正当な自衛権の行使として認める立場から、テロ組織の「ハマス」を利することになるとして、停戦の勧告を拒否してきた。今回の抗議文書は、イスラエルとパレスチナ問題に対する既存の認識が、米政府の内部でも揺らいでいることを示している。
ドゥーギンの多極的世界のイメージ
このように、イスラエルとパレスチナ問題に対する認識の世界的な変化は、アメリカの覇権と影響力の失墜の端的な反映である。つまり、イスラエルへの認識の変化は、アメリカが主導しない新しい世界のイメージを提示する契機になっているのだ。この新しい世界観は、多極型秩序を提唱するBRICSとグローバル・サウスが主導して形成するものだ。
そうした中で、いまSNSで非常に注目されてるのは、ロシアの右派を代表する思想家で、プーチンの思想的なブレーンともされているアレキサンドル・ドゥーギンである。ガザ戦争が始まってからドゥーギンは、Xにほぼ毎日長文の投稿をして、アメリカの覇権に代わる多極型世界のイメージを広めている。これが方々で引用され、拡散している。投稿の一部を引用する。
イスラエルはウクライナと同様、威圧的で冷酷な西側覇権の道具にすぎない。イスラエルは犯罪行為や人種差別的なレトリックや行動から逃げない。
しかし、問題の根源はイスラエルそのものにあるのではなく、むしろ一極世界の枠組みの中で地政学的な道具としての役割を担っていることにある。これは、ウラジーミル・プーチン大統領が最近、「クモ」によって編まれた敵意と対立の網に言及したとき、「分割統治」原則に基づく植民地主義戦術を採用するグローバリストの比喩として述べたことと正確に一致する。
(中略)
ガザ地区とパレスチナ全体で進行中の紛争は、特定のグループやアラブ人全般だけでなく、イスラム世界全体とイスラム文明への直接的な挑戦となっている。欧米がイスラムそのものと対峙していることはますます明白になっており、この現実は今や多くの人が認めている。
サウジアラビア、トルコ、イラン、パキスタンといった国々から、チュニジアからバーレーンにまたがる地域、サラフィストからスンニ派、スーフィズムまで、パレスチナ、シリア、リビア、レバノン内のさまざまな政治的派閥、さらにはシーア派とスンニ派の分裂に至るまで、イスラム文明の尊厳を守る集団的な必要性がある。イスラム文明は、いかなる不当な扱いも拒否する、主権を持つ独立した文明である。
エルドアンが紛争への対応としてジハードについて言及したことは、歴史的な十字軍を思い起こさせるが、この例えは現在の状況の本質を十分に捉えていない。現代の西洋のグローバリゼーションは、キリスト教文明から大きく乖離し、物質主義、無神論、個人主義を優先するあまり、キリスト教文化との多くのつながりを断ち切った。
キリスト教は、物質科学や利潤を第一義とする社会経済システムとはほとんど関係がなく、逸脱を合法化したり、病理を規範として受け入れたり、イスラエルのポスト・ヒューマニスト哲学者ユヴァル・ハラリが熱心に推進するポスト・ヒューマン的存在への傾倒を支持するものでもない。
現代の西洋は、反キリスト教的な現象であり、キリスト教の価値観やキリスト教の十字架の受け入れとのつながりを欠いている。イスラム世界が西洋と衝突するとき、それはキリスト文明との衝突ではなく、むしろ反キリスト文明と呼べる反キリスト文明との衝突であることを認識することが重要だ。
多極型秩序というと、現在では中国やロシアを中心としたBRICS諸国とグローバル・サウスが協力するこどで作られる新しい政治経済秩序というイメージが強い。そこでは、アメリカの一極集中の秩序に支配されることのない、それぞれの国の独自性が尊重される多様性のある秩序になるとされている。
しかしドゥーギンは、このイメージをさらに進化させる。