「ハマス」はテロ組織なのか?
こうした状況の変化の中で、問われているのは「ハマス」という組織の基本的な実態である。
10月7日の「ハマス」によるイスラエルの攻撃は、多くの民間人が死亡した非常に残虐なものであったことは疑いない。現在でも200人を上回る人質が「ハマス」に捕らわれており、彼らの早期の解放を願う声も多い。
しかし、この攻撃の残虐性によって「ハマス」をテロ組織とする認識には、強い反対意見が世界的に目立つようになっている。これは、「ハマス」はイスラエルの抑圧に抵抗する正当な運動であるとする見方だ。この根拠になっているのは、意外にも国連の決議や「国際司法裁判所」の見解である。
まず、「国連総会(UNGA)」は、パレスチナ人が武力闘争を含め、イスラエルの軍事占領に抵抗する権利を明確に認めている事実がある。この権利は、外国や植民地支配下にあるすべての民族の自決権という文脈で肯定された。ちょっと複雑になるが、この内容を見てみよう。
まず「国連総会決議3314(1974年)」は、すべての「植民地支配や人種差別体制、あるいは他の形態の外国人支配下にある諸民族」の自決、自由、独立の権利を確認し、「これらの諸民族がその目的のために闘争し、支援を求め、受ける権利」を確認した。
さらに、「国連総会決議37/43(1982年)」は、パレスチナ人民「および外国と植民地支配下にあるすべての人民」の自決に対する「不可侵の権利」を再確認した。また、「武力闘争を含むあらゆる利用可能な手段による植民地支配、外国支配、外国占領からの解放を求める人民の闘い」の正当性も再確認した。
同様の原則は、他の数多くの国連総会決議でも繰り返されてきた。国連総会決議には法的拘束力はないが、「世界の主権国家の大多数における慣習的な国際法上の見解」を正確に反映している。
これを見るとはっきりするが、パレスチナ人は武力闘争を含むあらゆる利用可能な手段で植民地支配からの解放を要求する権利があるのだ。その意味では今回の「ハマス」のイスラエル攻撃は、テロではなく、イスラエルの植民地支配からの解放を要求する攻撃として正当化されることになる。
だが、どんな状況でも武力行使が許されるわけではない。それには制限もある。国際法では、武力行使の権利は無制限ではなく、非正規戦闘を規制する他の法律と同様に、区別と比例の原則によって規制されている。「区別」とは、占領軍の戦闘員と民間人を区別する義務のことである。そのため、パレスチナの武装抵抗は占領軍の兵士とインフラを標的にしなければならず、決して民間人を標的にしてはならないことになる。
10月7日の攻撃はテロなのか?
このように、国連や国際法の現行の規定では、「ハマス」は占領者であるイスラエルの戦闘員とインフラを攻撃している限り、正当な解放闘争であることになる。テロではない。しかし「ハマス」による今回の攻撃は、音楽祭の観客、260人を含む1,200人が殺害された。これを見ると、やはりこれは「ハマス」によるテロであり、それに対抗するためにイスラエルは正当な自衛権を行使していることになる。
そして、アメリカやイスラエルの提供している既存の言説を疑う傾向が強くなっているので、SNSを中心に今回の攻撃が本当にテロと言えるのかどうか検証が進んでいる。あまり知られていないが、イスラエルはアメリカ以上に国民の分断がある国家だ。現在のネタニヤフ政権を支持しているのは、イスラエル国内の右派と極右である。これらはイスラエル国内にパレスチナ国家が誕生することを許さず、パレスチナ人を放逐して、大イスラエルの建設を目指す。
他方、パレスチナ人の国家を認め、2つの国家の共存を主張するリベラルから左派も強い。彼らは、「Ynot」や「Times of Israel」、さらに「Haaretz」などの大手主要紙に結集して、盛んに言論活動を展開している。中には、現在のイスラエルを解体し、パレスチナ人と一緒になった新しい国家の形成を主張するグループもある。
右派と極右、そしてリベラルと左派の2つの政治勢力は、それこそアメリカのバイデンの民主党とトランプ支持の共和党が骨肉の争いを繰り広げているように、敵対的に対立している。そして、興味深いことに、リベラルと左派によって、10月7日に何が本当に起こっていたのか解明が進められている。