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「米国覇権凋落」ガザ戦争・ウクライナ戦争で浮き彫りに。一極集中の秩序が終わると何が起こるのか?=高島康司

ガザ戦争とウクライナ戦争を契機にして、世界中で市民の認識が根本的に変化しつつある。これは、アメリカの覇権の凋落が急速に進んでいることの反映である。アメリカが提供するナラティブ(語り口、世界観)を信用する人々が大きく減少しているのだ。それに代わり、ロシアのアレキサンドル・ドゥーギンの多極的世界観が注目されている。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

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アメリカ覇権の凋落と世界認識の変化

それでは今回のメインテーマを書く。ガザ戦争を契機として、多くの人々が欧米が提供する説明の枠組みを拒否し、新しい世界認識を受け入れ始めた。この動きは、明らかにアメリカの覇権が凋落していることの反映である。この動きを見るためにも、いま我々の目の前で起こっていることを確認する。アメリカの影響力の低下が顕著になっていることが分かる。

まずは、ウクライナ戦争だ。ウクライナの敗北が決定しつつあり、欧米諸国もこれを認める方向に動き始めた。CIA長官のウィリアム・バーンズは、ゼレンスキーとの緊急の秘密会談のためにキエフに到着する。ウクライナの敗北が避けられなくなってるので、ロシアとの和平交渉の可能性を探る意図がある。そうしなければ、ゼレンスキー政権は国内の反乱に直面する可能性が高いという認識をパーンズ長官は持っているからだとされている。

すでにウクライナ軍は疲弊している。現在の軍隊の大半は年配の男性、一部の女性、そして訓練を受けていない少年で構成されている。 彼らは、ロシア軍を食い止めようとする狐穴や護岸を埋めるための肉弾となるだけだ。一方、ロシアは特に急いではいない。 ロシアの戦略は、ウクライナの軍隊を疲弊させ、ウクライナに政治的危機をもたらすことだ。 ロシアの作戦は予定より早く進んでおり、ワシントンと同様にモスクワも驚いている。

そしてキエフでは、ゼレンスキーらのチームとウクライナ軍指導部との間で内部抗争が勃発している。ゼレンスキーは、ウクライナ軍最高司令官のヴァレリー・ザルジニー将軍を逮捕し、粛清するための舞台を整えようとしている。彼はザルジニーに連なる3人の将軍の解任で準備を整えているとされている。ザルジニーの最側近はすでに殺害されている。

このように、ウクライナは全面的な敗北を前に、ゼレンスキーと軍との内部抗争が激化し、内紛かクーデターが起こる可能性が高くなっている。ウクライナ戦争でロシアを追い詰め、同国を弱体化するというアメリカの意図は完全に頓挫した感がある。これは、アメリカの影響力の大きな低下に結果するだろう。

そうしたタイミングで、11月10日、大手格付会社の「ムーディーズ」は、米国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。財政赤字の拡大に加えて、「議会内で政治的二極化が継続」しているという政治的混乱が、政府や議会による財政ガバナンスを低下させていることを理由に挙げている。米議会は11月17日の期限に間に合い、つなぎ予算案が可決しても「ムーディーズ」の評価は変わらなかった。最近米国債は下落し、長期金利は高止まりしている。これも、アメリカの信用が失墜していることの反映であろう。

ガザ戦争による認識の変化

さらに、ガザ戦争でもアメリカの影響力の低下が目立つ。米バイデン政権と他の欧米諸国は、1,200人が死んだ10月7日の「ハマス」による攻撃はいわれのないテロであり、イスラエルは自国を自衛する権利があるとして、イスラエルのガザ攻撃を支持している。ガザの民間人の死傷者を抑えるようにイスラエルに要請しながらも、停戦の勧告は行っていない。

イスラエルのガザ攻撃はいまに始まったことではない。2006年、2008年、2009年、2014年、2021年と攻撃は頻繁に行われ、そのたびに1,000人を越える死者が出ていた。どの攻撃でもイスラエルの残虐性とガザの市民の悲惨な状況はSNSを中心に広く伝えられていた。しかしどの攻撃でも、イスラエルはテロの被害者であり、ガザ攻撃はイスラエルの自衛権の行使として正当化されるという論理と説明で一貫していた。

そして、おおむね国際世論もこれを受け入れ、ガザの攻撃を招いた責任はテロ組織である「ハマス」にあるとするコンセンサスができていた。またイスラエルは、絶えずテロ攻撃の対象となっているかわいそうな被害者というのが、通用しているイスラエルの一般的なアイデンティティーであった。

しかし、10月7日の「ハマス」の攻撃で始まったガザ戦争で、状況は180度変化しつつある。もちろん、今回のイスラエルによるガザ攻撃は、規模も死傷者数も、そして残虐性もこれまでのどの攻撃も上回っている。それがイスラエルに対するイメージと認識を根本から変化させていることは間違いない。

だが、それだけではない。アメリカの覇権失墜による信用と影響力の低下から、これまでアメリカを中心とした欧米の説明や認識の枠組みの通用力がなくなっているのだ。テロ組織に攻撃される被害者としてのイスラエルという、1948年の建国以来欧米を通して喧伝されてきたイメージは、根っこから崩れつつある。いまでも残る残虐で暴力的なアパルトヘイト国こそ、イスラエルの実態であるというイメージが世界的に共有されている。このイスラエルに対する強いネガティブなイメージは、毎日のように世界各地で起こっているパレスチナ支持と即時停戦を求める抗議運動の激しさに現れている。

Next: 「ハマス」はテロ組織なのか?10月7日の攻撃の意味

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