こうした中でさまざまなことが明らかになっている。「Ynot」や「Times of Israel」の記事を見ると、次のようなことが明らかになっている。
1. 10月7日にガザ近郊の集団農場(キブツ)で殺害された人々の一部は、「ハマス」とイスラエル軍(IDF)の戦闘に巻き込まれて死んだ。「ハマス」による一方的な攻撃ではなかった。
2. 「ハマス」の攻撃でイスラエル軍はパニック状態になり、上空からヘリコプターで無差別に地上の動くものを攻撃した。「ハマス」の戦闘員と逃げる民間人の区別は不可能だったとパイロットは証言している。民間人の一部はイスラエル軍によって殺害された可能性がある。
3. 死亡した1,200人のうち、320人はイスラエル軍の兵士や将校だった。また、イスラエルは皆兵制である。すべての国民は徴兵義務があり、40歳になるまでは予備役として登録される。これらの予備役は軍人として扱われる。
このなかで特に問題になるのは、(2)と(3)だ。少なくとも320人の軍人は戦闘員になるので、「ハマス」の正当な攻撃目標になる。また、いまのところ割合は分からないが、かなりの数の予備役が犠牲者に含まれている見込みだ。彼らも軍人である限り、戦闘員として見なされる。また(1)は、すべての死者が「ハマス」によるものではないことを示している。
「Ynot」や「Times of Israel」の取材記事が示す状況を見ると、微妙な結果になることが分かる。少なくともすべての死者が「ハマス」によるテロの犠牲者だとは断言できなくなる。死者は「ハマス」の正当な攻撃対象となるイスラエル軍の軍人や予備役兵、そしてパニックしたイスラエル軍によって殺害された人々も含まれている。少なくとも、冷血なテロの犠牲者としてのイスラエルという、欧米が喧伝しているイメージは成り立たないことになる。
パレスチナ問題ではイスラエルに自衛権はない
そして、ガザの攻撃はテロの対象となったイスラエルの正当な自衛権の行使であるという主張も、実は成り立たないことがはっきりしている。「国連憲章」の第51条には、攻撃されたときに反撃できる国家の自衛権が正当な権利として保証されている。しかしながら、ことパレスチナに関する限り、イスラエルには自衛権の権利は否定されているのだ。
2004年、イスラエルが自衛を口実にヨルダン川西岸に分離壁を建設したことに関して、イスラエルではこの正当性が議論されたことがある。これに対して「国際司法裁判所」は 「イスラエルが国連憲章第51条に基づく正当な自衛権を有すると主張するのは正しくない」と結論づけた。「国際司法裁判所」の文書には次のようにある。
被占領パレスチナ地域における壁建設の法的影響
自衛 – 憲章第51条 – イスラエルに対する攻撃は外国に帰属しない – イスラエルが支配権を行使している領域内で発生した1~11号機の建設を正当化するために持ち出された脅威 第51条は、本件では関係ない。壁の建設とそれに付随する体制は、国際的なIUCVに反する。
ガチガチの法律用語が多く理解するのは難しいかもしれないが、要するにイスラエルはパレスチナを不法に占領しているので、パレスチナに対してはイスラエルの自衛権の行使は認められないということだ。
ほころびるアメリカとイスラエルの論理
アメリカとイスラエル、そしてイギリス、ドイツ、フランスなどは、イスラエルは「ハマス」のテロの犠牲者であり、自衛権の行使としてガザを攻撃する権利はある。しかしながら、民間人の犠牲は最小限に押さえるべきだと主張している。だがこの主張は、根本から成立しないことが明らかである。
こうした事実の根拠となった数々の国連決議や、「国際司法裁判所」の意見書などは、かなり以前から存在していた。パレスチナ人には武力を手段とした正当な抵抗権が認められていること、そしてイスラエルにはパレスチナに対する自衛権は認められないことなどは、何年も前から明確だった。
イスラエルを不当なテロの犠牲者とし、パレスチナの攻撃をイスラエルの正当な自衛権の行使であるとするこれまでの認識は通用しなくなっている。もちろん、その理由の1つは、今回の攻撃の規模と死者数が飛び抜けて高いことにあることは間違いない。だが、アメリカの影響力の凋落で、アメリカが中心となって提示してきた認識が信用されなくなったことが、最大の理由であろう。
特に、BRICSに結集しているグローバルサウスの国々は、国連決議や「国際司法裁判所」の文章などを根拠に、アメリカの説明が成り立たないことを盛んに暴いている。そして、この新しい見方がSNSなどを通して世界的に拡散し、パレスチナを支持して即時の停戦を求まる世界的な運動に拡大しているのだ。パレスチナ支持の運動の高まりは、アメリカの影響力失墜の反映である。