植田日銀総裁は「やらなくてもいい利上げ」をやってしまった。それが2024年7月31日である。まさに意味不明の、とんでもない経済的暴挙であったともいえる。その結果、株式市場はクラッシュし、8月5日はブラックマンデーを超える悲惨な下落率となったのだった。(『 鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編 鈴木傾城の「フルインベスト」メルマガ編 』鈴木傾城)
プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
景気が悪いのに利上げした日本政府と日銀
日銀は2024年7月31日の金融政策決定会合で、政策金利を0.1%から0.25%へと利上げした。この利上げについては非常に大きな疑念が出されていた。なぜなら、利上げというのは基本的に、景気が過熱しているときや、インフレが発生しているときに行うものだからだ。
日本は景気がいいのか。いや、まったくそうではない。むしろ、景気は悪いと捉えたほうがいいような環境である。
実質賃金は2年以上もマイナスである。物価上昇もあって消費も減退しており企業も苦しんでいる。倒産も増加している。公共投資も減った。当然のことながら、GDP(国内総生産)も下落している。
「日本経済の2023年度後半以降の弱さは従来の想定以上となった」とアナリストも指摘しているが、そんなことは日本政府も一番よくわかっているはずだ。なぜなら、GDPを発表し、下方修正したのは内閣府本人だからである。
本来、景気が減速しているのであれば、減税して国民負担率を軽くしなければならないのだが、日本政府はここでも真逆なことをしている。岸田政権は消費税をけっして引き下げようとしないし、むしろ税金を引き上げることさえ検討している。
子ども支援税や森林環境税みたいな新税も国民に負わせているし、省エネ賦課金みたいなわけのわからないものを電気代に追加してそれを引き上げている。自動車税も引き上げた。そして、児童手当特例給付を切ったり、各種控除を削減・削除したり、年金受給額を減らしたりしているのだ。
そんな景気の悪い中で利上げするというのだから、馬鹿丸出しといっても過言ではない。日本経済は利上げに耐えられないと普通なら思うのだが、そう思わないのが日銀であった。
とくに8月5日は悲惨で歴史的な大惨事となった
もっとも、その日銀に「利上げしろ」と圧力をかけていたのは、岸田首相であり、茂木幹事長であり、河野太郎デジタル相であった。河野太郎氏なんかはわざわざブルームバーグのインタビューで「日銀は政策金利を上げる必要がある」「円は安過ぎだ。価値を戻す必要がある」と述べて日銀に圧力をかけていた。
要するに、日本の景気動向を完全に無視して、円安の是正のために利上げしろといっていたのだ。
しかし、円はすでに利上げしなくても円高に振れていた。そして、アメリカのほうでは景気減速が見られており、FRB(連邦準備銀行)の近々の利下げが確実視されている状況にまできている。
つまり、もう日銀は利上げなんかしなくても良かったのだ。通常はそう考えるので、多くの国外のヘッジファンドや機関投資家、あるいはまともな日本の経済アナリストはみんな「利上げはないだろう」と見ていた。
ところが、そんな中で植田日銀総裁は「やらなくてもいい利上げ」をやってしまったのだった。それが2024年7月31日である。まさに意味不明の、とんでもない経済的暴挙であったともいえる。
そして、どうなったのか。
当然のことながら、この利上げを受けて株式市場は動揺して暴落していく一方となった。暴落は8月2日からはじまったのだが、とくに8月5日は悲惨だった。大惨事であったといってもいい。
日経225株価指数は4,568.02ポイント(約12.7%)の下落で、3万1,316.62円で取引を終えている。これは1日の下落幅としては同指数史上最大であり、1987年10月20日の3,836ポイント下落の記録を上まわっている。つまり、この日はブラックマンデーを超える悲惨な下落率であった。