「株価が不安定な間は利上げしない」先週7日に行われた内田日銀副総裁の発言が、今日の日本経済の弱さ、円安を見事に示唆することになりました。7月31日の日銀追加利上げ当日の日本株は500円余り上昇して終わりましたが、その後、植田日銀総裁が「物価目標到達の際には中立金利水準に向けて利上げを続ける」との発言をしたことから、円高と過去最大の株価下落を見、日銀批判が高まったためです。
しかし、この一件は、日本経済が衰退を続け、為替が円安傾向にある一つの要因を示唆したように見えます。政府日銀は物価の抑制よりも株価の上昇、安定をより重視する姿勢を見せ、日銀はこれを受けて物価抑制策としての利上げは、株価が落ち着くまで見合わせることを示唆、これを見て為替は円安に、急落していた株価は反発を見せました。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年8月14日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
利上げは時期尚早の批判は的外れ
今回の利上げ後の円高・株急落をみて、政界や市場関係者の間では、日銀の「時期尚早の利上げ」を批判する声が高まりました。消費の回復を確認してからにすべきだったとの批判があり、また日銀自身が成長率予想を引き下げる中で利上げに出る矛盾を指摘する声もありました。
しかし、これらの批判は的外れで、むしろ日銀の「正常化」の動き、緩和の修正は遅すぎたことが問題で、物価目標を上回る物価上昇が実現した2年前に緩和の修正、物価に見合った金利設定をしていれば、その後の行き過ぎた円安・物価高を抑制でき、ここまで株バブルが膨らまずに済み、従って利上げによる円高急進・株価急落は避けられた面があります。
そもそも個人消費がこの1年減少傾向にあったのは、政府日銀が物価抑制を怠り、物価高が実質賃金の2年以上の連続減少、購買力低下を通じて家計を圧迫したことが原因です。
つまり、利上げの遅れ、物価高の放置が景気を圧迫したわけで、景気回復を確認するまで利上げを待つべきとの考えは、物価高の放置が余計景気を悪くすることに考えが及んでいません。
アベノミクスが株バブルを作った
今回、追加利上げで円高が進み、株価が急落した裏には、アベノミクス以来10年も異常な金融緩和を続けた中で、大幅な円安が進み、株のバブルが膨らんでいたことがあります。
経済の実態を反映した株高ではなく、長期間異常な低金利が続き、円安も進んだことで、実力以上に株高が進み、さらに政府の新NISAで株高円安が助長されていた分、アベノミクスの終焉による株の反落余地が大きくなっていました。
つまり、今回の円高・株価急落は不適切な時期に利上げを行ったためではなく、長い間アベノミクスの延長線上で異次元緩和を続けたことで株バブルが膨らんでいたところへ、利上げによってこれが弾けたことによります。
問われるべきは経済の成長力を高めることなく、物価安定よりも円安株高を重視した政策を長年続けてしまったことです。