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「飴は広告」老舗駄菓子問屋が飴のオーダーメイドで売り上げを倍増させた大胆な変革=吉村智樹

中村「具体的な経済効果はまだ表れていませんが、やってみて『あり』でしたね。社員と『どこへ行ってきたの?』『どうだった?』と話ができるようになったのは大きいです。宇多田ヒカルさんのライブだったり、音楽フェスだったり、社員がそれらの現場にいて、時代の空気を感じるのはとても大切なことだと思います」

エンタメ系チケットの料金を負担する福利厚生制度により「スタッフとの会話の機会が増えた」と語るimage by:吉村智樹

エンタメ系チケットの料金を負担する福利厚生制度により「スタッフとの会話の機会が増えた」と語るimage by:吉村智樹

飴は単なる菓子ではなくコミュニケーションツール

中村さんの話の端々から、「まいあめ」の流通経路が他の菓子メーカーと大きく違っていること、そしてコミュニケーションをひじょうに重要視していることがわかる。

中村「そうなんです。飴はコミュニケーションツールだと考えています。そして弊社は飴をつくる会社ではなく、“飴を通じてコミュニケーションのきっかけをつくる会社”だと考えているんです」

「飴はコミュニケーションのきっかけ」。確かに飴は自分でなめるだけではなく、人に手渡す場合も多いお菓子だ。「はい、飴ちゃん」と配布用の飴を巾着に常備しているご婦人もいらっしゃる。そのやりとりが人と人との距離を縮め、温かな会話が生まれるケースも少なくはない。それが他の菓子にはない、飴ならではの特徴・美質だといってもいい。

そして中村さんは飴がもつ関係構築性の高さに注目して方向転換をはかり、入社以降、それまで5,000万円だった「まいあめ」事業の売り上げを倍以上の1億2,000万円にまで伸ばしたのだ。その背景には、さまざまなドラマがあった。

2代目の父が始めた飴のオーダーメイドサービス「まいあめ」

株式会社ナカムラは、この地で1963年、祖父・中村弘さんが駄菓子問屋「中村弘商店」を創業したのがはじまりだ。2代目・父の貴男(63)さんが1993年に法人化し、「株式会社ナカムラ」に改称した。以来、ナカムラは駄菓子店やスーパーマーケットにおやつを卸し続けている。

中村さんは180センチを超える長身を活かし、高校時代はバスケットボール部のキャプテンとして、弱小だったチームをまともなチームにただす活躍を見せた。いっぽう古着などのファッションも好きで、卒業後はジーンズメーカーに就職。仕事柄トレンドに敏感になり、マーケティング企画会社に転職した。

2007年、2代目である父・貴男さんは、まいあめの前身となる、顧客が希望する柄をいれられる組み飴のサービス事業「まいあめ工房」を起ち上げる。

「組み飴」とは金太郎飴に代表される、切っても切っても同じ絵柄が出てくる飴のこと。伝統工芸である組み飴に企業ロゴやキャラクターの顔などを組み込み、景品や記念品、キャンペーンアイテムとして活用してもらおうと考えたのだ。

2代目が伝統の技術である組み飴のオーダーをオンラインでできるサービス「まいあめ(工房)」を起ち上げたimage by:まいあめ

2代目が伝統の技術である組み飴のオーダーをオンラインでできるサービス「まいあめ(工房)」を起ち上げたimage by:まいあめ

たとえば「塩」など、組み飴の技術を活かし、飴に文字を入れることが可能にimage by:まいあめ

たとえば「塩」など、組み飴の技術を活かし、飴に文字を入れることが可能にimage by:まいあめ

中村「父は組み飴をインターネットで注文できるようにしたんです。父はインドア派、今でいうパソコンオタクで、接客が苦手でした。そのぶんオンライン化にはいち早く着手したんです」

のちにインターネットによるオーダーが一般化する時代を迎えるが、早い段階でそのシステムを採り入れた父・貴男さんには先見の明があり、好調な滑り出しを見せたという。

貴男さんがオーダーメイドの飴に着手した理由は、もう一つある。スーパーマーケットが自社ブランドをもつなど業界再編が進み、旧来の菓子の卸問屋は減少。平成の頃には名古屋市西区周辺に400軒ほどあった菓子の卸問屋が、現在40軒台にまで落ち込んでいるという。このまま駄菓子屋やスーパーマーケットに商品を卸しているだけでは、先がない。そう考えたのだ。

ただ、貴男さんは積極的に自ら企画営業をするタイプではなかった。そこで右腕となったのが中村さんだ。マーケティング企画会社に勤務しながら副業として家業に携わり、営業を手伝った。そして2016年、自らビームスジャパンに企画書を持ち込み、日本らしいお土産として配布する飴の受注にこぎつけたのだ。

「ビームスジャパン」の文字が入った組み飴。これが大いに話題となったimage by:まいあめ

「ビームスジャパン」の文字が入った組み飴。これが大いに話題となったimage by:まいあめ

中村「ファッションブランドの発表会や各種レセプションなど企業様のPRには『飴が有効である』と、ずっと考えていました。組み飴に文字などを入れると、それ自体が名刺や広告になりますから」

さらにその後、中村さんはInstagram日本法人にプレゼンし、パネルディスカッションの際に招待客へ配布する飴の受注を獲得する。これらが話題となり、まいあめの知名度は上昇した。ファッション業界とマーケティング業界、二つの世界を歩いてきた中村さんだからできた、大胆な発想の転換である。

Next: 「飴に特化した広告企業」へと改革できた理由

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