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「DeepSeekショック」は氷山の一角。中国の技術力を舐めすぎた欧米と日本は、ここから何度もショックを経験する=高島康司

無数にある「スプートニク的瞬間」

このように「DeepSeek」の発表は、非常に大きな驚きを引き起こした。筆者も「DeepSeek」を使ってみたが、「ChatGPT4o」とほぼ同等の機能だが、反応と処理の速度は「ChatGPT4o」よりもかなり速かった。これが完全に無料で提供されているので、「ChatGPT4o」などのアメリカ企業のAIサービスには大きな脅威である。

まさにアメリカが絶対的な優勢を維持していると思われていたAIの分野で、米企業を凌ぐサービスを中国の企業が提供したことは、「スプートニク的瞬間」と呼ばれるような大変な驚きを引き起こした。

しかし、「DeepSeek」の公開を「スプートニク的瞬間」と呼ぶのは現実を反映しているとは言えない。すでに第814回の記事で詳しく紹介したように、すでに中国は先端的テクノロジーの分野で圧倒的に優勢であり、AIはアメリカがかろうじて優位を維持していた分野のひとつにすぎない。

「スプートニク的瞬間」という表現には、中国のテクノロジーがやっとアメリカに追いついてきたという驚きの印象が含意されているが、現実はそうではない。すでに中国のテクノロジーはどの先端的分野でもアメリカを凌駕している。今回「DeepSeek」の公開で、たまたま先端分野のひとつである中国のAIが注目されたのだ。そうした意味では、これから無数の「スプートニク的瞬間」を我々は目にすることになるはずだ。

すでに第814回の記事で紹介したが、オーストラリア国防省のシンクタンク、「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」は2024年8月に、世界の最先端技術のランキングである「クリティカル・テクノロジー・トラッカー」の最新版を発表した。

【関連】中国は本当に衰退しているのか?最先端テクノロジーで圧倒的優位に立つと言える根拠=高島康司

このレポートは、防衛、宇宙、エネルギー、環境、人工知能、バイオテクノロジー、ロボット工学、サイバー、コンピューティング、先進材料、量子技術の主要分野にわたる64のクリティカル・テクノロジーをカバーしている。このレポートは、各国の研究実績、戦略的意図、将来の科学技術能力の潜在的可能性を予測する先行指標として、最も引用頻度の高い論文の上位10%を調査し、分野別で国と研究機関の優位性をランキングしている。

・ASPIのCritical Technology Tracker
https://ad-aspi.s3.ap-southeast-2.amazonaws.com/2023-03/ASPIs%20Critical%20Technology%20Tracker_0.pdf

中国は2003年から2007年の間、先端的な64の技術分野のうち3分野で首位に立ったが、2019年から2023年の間には64の技術分野のうち57分野で首位に立っており、昨年のランキング(2018年から2022年)で52の技術分野で首位に立っていたときよりも、そのリードをさらに広げている。中国は、量子センサー、高性能コンピューティング、重力センサー、宇宙打ち上げ、先進的な集積回路設計および製造(半導体チップ製造)の分野で新たな進歩を遂げた。

一方、アメリカは首位であった分野は以下の7つだけだった。

1. AIによる自然言語処理
2. 量子コンピューティング
3. 遺伝子工学
4. 核医学と放射線治療
5. ワクチン開発
6. 小型人工衛星
7. 核時計

これ以外の57分野では中国が首位でアメリカを凌駕している。その代表的な分野のランキングは第814回の記事に掲載したが、再度紹介する。

<中国が首位の代表的分野>

電気バッテリー

電気バッテリー

ドローン、群れをなすロボット、協調ロボット

ドローン、群れをなすロボット、協調ロボット

先進的な航空機エンジン

先進的な航空機エンジン

ハイスペックな加工プロセス

ハイスペックな加工プロセス

高度集積回路の設計および製造

高度集積回路の設計および製造

レポートの分析結果

これが「クリティカル・テクノロジー・トラッカー」の結果である。先端的テクノロジーの世界的な国別ランキングを出しているのは、筆者の知る限り、「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)だけである。

レポートの分析を見ると、中国のテクノロジーの優位性がどれほどのものなのかよく分かる。次頁に、このレポートの一部を訳出した。

Next: 現実を直視すべき?中国の技術力が世界を席巻する日

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