韓国政治の混迷が、ついに司法の独立すら危うくしている。最大野党「共に民主党」による政敵排除の動きは、権力闘争の域を超え、国家の法秩序を揺るがす危機へと発展した。対立と分断が深まる中、米国はすでに韓国を「内乱状態」と見なしつつある。少子化と社会不安が加速する背景には、こうした政治の劣化がある。韓国社会は、かつてない深刻な「制度崩壊」の瀬戸際に立たされているのだ。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
アメリカにも見限られた韓国
韓国政治は、危険な状況にある。縄張り争いがエスカレートしているからだ。相手を排除する負のエネルギーが充満している結果、最後の砦になる司法までが争いに巻き込まれている。「コップの中の嵐」と言えなくもないが、確実に韓国の対外的信頼度を低下させている。
米国は、こうした韓国に対して冷めた目で眺めている。韓国が、「内乱のような事態」になっていると突き放しているのだ。これは、韓国最大野党「共に民主党」が、権謀術策を用いて韓国政治を操っていることへ疑念を強めている結果だ。米国は今後、米韓同盟を維持し続ける上で、大きな障害の発生を意識し始めているのであろう。米国も、「呆れ果てた」という状況なのだ。米国が、韓国へ愛想を尽かし始めたのは文政権時代からである。米韓は、対中戦略で足並みを揃えようとしたが、満足すべき結果を得られなかったのだ。
米国が、韓国へ疑念を持ち始めている矢先に、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の「非常厳戒」に伴う弾劾が起こった。この非常厳戒の裏には、国会の過半数を占める最大野党「共に民主党」が、閣僚の弾劾を連発して行政を麻痺させる緊急事態の発生があった。これが、非常厳戒を引き起したものであろう。尹前大統領だけが、責められる事件ではないのだ。根の深い騒動である。
韓国政治は、今なお混乱の極にある。次期大統領選挙を巡っても、「共に民主党」候補となった李在明氏は、5つの罪名を背負った「被告」の身である。とりわけ重大なのは、選挙違反事件だ。最高裁で高裁差戻し判決によって、事実上の「有罪」が濃厚となるや、「共に民主党」は猛烈な勢いで最高裁長官の弾劾を始めると警告する事態になった。司法権を無視する、一種のクーデターのような騒ぎを起こして圧力を加えた。
「共に民主党」は、進歩派を名乗る政党である。その政党が、司法権までを「簒奪」するごとき動きをみせ、李氏の当選を働きかける状況は、「騒乱」とさえ言えるほど常軌を逸した行動である。目的のために手段を選ばない振舞は、決して看過されるべきではない。
ドイツまで韓国終末論を流す
韓国は最近、世界の登録者数が2,380万人にのぼるドイツのユーチューブチャンネルで、「韓国は終わった」と15分にわたって報じられた。「韓国の少子化は、経済・社会・文化・軍事のすべての面で韓国を崩壊させるはずで、すでにいかなるものも状況を好転させることはできない」という極めて悲観的内容だ。
この裏にあるのは、政治的不安定な事態である。韓国社会を表すキーワードは、「対立」の二文字である。それは、思想(政治)的対立・年代別対立・性別対立と分類できるが、最大の対立は政治である。
この政治的対立を軸に、年代別対立と性別対立が絡みあうという複雑な対立模様を描いている。こうした対立は突然、浮上したわけではない。朝鮮李朝時代から存在したが、過去の低い経済成長レベルでは「我慢」していた。それが、1人当たり名目GDPが、3万ドルを超えた2014年(朴槿恵大統領時代)頃から紛争が目立ってきた。「もはや、我慢せずに暴れ回る」というものになったのである。
韓国終末論の根拠は、合計特殊出生率(1人の女性が出産する子ども数)の急低下にある。これが、「1」を割ったのが2018年の「0.98」である。世界ワースト・ワンを記録したのだ。人口が、横ばいを維持する合計特殊出生率は「2.08」とされる。韓国は現在、このレベルの半分以下という絶望的な状況にある。これだけ、社会状況が混乱している証拠でもある。
この状況が、2024年には「0.75」へとさらに低下している。出生率の急低下は多分に、性別対立を反映している。韓国は、儒教による「男尊女卑」の気風が今なお強く残っている国だ。男子は、育児など家事を手伝わない習慣がある。世界の合計特殊出生率をみると、男性の育児協力度合いが高い国では、出生率低下が緩やかである。韓国の夫は、ほとんど育児や家事に協力しないとされている。