ヤクルトの製品開発と堅実な企業文化
では、ヤクルト1000のような「第二の矢」は果たして実現可能なのでしょうか。そのヒントは、ヤクルト1000の開発ストーリーにあります。
<ヤクルト1000の開発秘話>
ヤクルト1000の開発は、既存商品との差別化を徹底することから始まりました。ヤクルトに元々含まれる「シロタ株」という乳酸菌による腸内環境改善機能に着目し、近年の研究で注目される腸と脳の関係性から「腸内環境を保つことがストレス改善につながるのでは」という着想を得たといいます。これは、市場のトレンドと、自社の持つシロタ株の可能性をうまく結びつけた例と言えるでしょう。
実際には、ヤクルト1000は既存商品よりもシロタ株の含有量を増やした製品です。この「含有量を増やすと睡眠に良い影響を及ぼす」という知見が、現代人が最も求めている機能と合致し、ヤクルトの持つブランド力と結びついたことが、成功の秘訣だったと考えられます。
<堅実で変化に乏しい企業文化>
このような開発ストーリーは、ヤクルトの「硬い」企業文化をよく表していると言えます。新たな製品を大胆に打ち出すのではなく、あくまでヤクルトという既存のブランドの枠内で、濃度を変えるなどの工夫で対応してきたという印象です。
オープンワークの企業文化に関するコメントを見ると、ヤクルトは「守りに強い会社であり、挑戦はなかなかできない雰囲気がある」と表現されています。もちろん挑戦は求められるものの、堅実さの方が強く、ブランドイメージがあるため仕方ないとも言えるでしょう。また、「中途入社が少ないため、よく言えばアットホーム感があるが、悪く言えば価値観に多様性を感じられないことがある」という声もあり、この価値観に疑問を抱かない社員であれば働きやすいが、疑問を抱くと辛いと感じることもあるようです。
ヤクルトは「ヤクルトだけで」ビジネスを展開し、それを400や1000にする程度の工夫で、これだけ業績を増やしてきたという点では、逆にすごいとも言えます。これは、海外の経済発展と共に、シロタ株の含有量を調整しながら高付加価値品を出していくことができる、という裏返しでもあります。ヤクルトというブランド一本足打法に近いビジネスモデルで、これほど堅実にビジネスを続けているのは驚くべきことです。
<ヤクルトの財務健全性:潤沢なキャッシュフロー>
一般的に、食品メーカーは新商品開発に多額の費用をかけ、工場を新設したり研究開発費を投じたりするため、キャッシュフローが圧迫されがちです。しかし、ヤクルトは脇道にそれず、ヤクルトだけをやってきたため、キャッシュフローが非常に潤沢です。
ヤクルトのフリーキャッシュフローを見ると、常に黒字で推移しており、非常に潤沢な資金を持っていることが分かります。足元で一時的に下がっている部分もありますが、これはヤクルト1000のヒットに伴う日本の工場やアメリカの工場への積極的な設備投資の影響であり、基本的には稼ぎ続けることができる会社だと言えるでしょう。余計な投資がいらず、繰り返し購入されることでキャッシュがどんどん生まれるという構造です。
投資家視点でのヤクルトの評価
ヤクルトは、超地味ではありますが、非常に強いブランド力とビジネスモデルを持っていると言えます。ヤクルトというブランドネームがある限り、簡単に業績が崩れるイメージは湧きにくいでしょう。なんだかんだで、ごく普通のヤクルトから売れ続けるはずです。私自身もたまに店頭で見かけると「久々に飲んでみようかな」と思うことがあり、このブランドバリューは海外でも同様に長続きしているのだろうと感じます。