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なぜスシローは中国で大成功し、くら寿司は11億円赤字で撤退したのか。中国人の“寿司観”を読み違えた代償=牧野武文

理屈を言うよりも事実を見てもらった方がわかりやすいと思います。以下は「日本料理発展報告2025」(紅餐研究院)に掲載をされている寿司屋の人気メニューランキングです。

<人気の寿司メニュー>

  1. サーモン握り
  2. 海藻軍艦
  3. 肉でんぶ巻き
  4. 中華海藻握り
  5. タコわさび軍艦
  6. コーン軍艦
  7. カッパ巻き
  8. 甘えび刺身
  9. うなぎ握り
  10. ウバガイ握り
  11. たこ焼き
  12. 肉でんぶ軍艦
  13. タコの胡麻和え
  14. うなぎ巻き
  15. ラーメン
  16. サーモンハラミ握り
  17. カリフォルニアロール
  18. フォアグラ握り
  19. マグロ軍艦
  20. マグロ握り

(※海水魚はサーモンとマグロだけであり、多くは近海もののエビ・タコ・貝か加熱したネタになる。)

サーモンは、今、中国で大人気となっている食材です。陸上養殖の技術が確立したことが大きな要因です。陸上の海水、淡水施設で水を循環させる閉鎖環境で養殖ができるため、アニサキスなどの寄生虫の心配がありません。昔の天然鮭はアニサキスの問題があり、加熱をして食べるのが普通で、刺身で食べられるのはごく限られた高級店だけでした。このような店では、拡大鏡で切り身を検査して、ひとつひとつ寄生虫を除去していたのです。非常に手間がかかる食材で、高級寿司店などで珍味のひとつとして提供されているだけにとどまっていました。また、北海道などではいったん冷凍をして提供するルイベとして親しまれていました。冷凍をすることにより寄生虫が死滅をするため、安全に食べられるのです。

1980年代に、サーモンの輸出戦略としてノルウェー政府が目をつけたのが日本でした。冷凍をすることにより、寄生虫処理をし、生食ができるということを売りにして、寿司ネタなどに提供する戦略でした。

そして、90年代に回転寿司でサーモンが出されると人気を獲得していくことになりました。見た目が鮮やかであるということ、通常の寿司ネタに比べて味がはっきりと際立っていること、脂が乗っていることなどから人気を得ていきました。

中国では、陸上養殖の技術により、寄生虫フリーのサーモンが出回るようになり、やはり回転寿司などで人気の食材になっています。

しかし、それ以外を見ると、甘エビやウバガイ、タコなどの生食はありますが、魚の生食は19位に登場するマグロぐらいです。あれだけ中国で人気だと言われ、中国人に食い尽くされてしまうとまで言われたマグロは、以前ほどの人気はありません。特に日本人が大好きな大トロは、「脂っぽくて食感がよくない」と感じる中国人が多いようです。

それどころか、肉でんぶ巻きやコーン軍艦、フォアグラ握りなど、非海産物メニューもランクインをしています。さらには、驚くことに「たこ焼き」「ラーメン」が寿司屋の人気メニューランキングに入っているのです。サーモン握りも「炙り」が人気で、やはり「冷えたものは食べない」「生ものは食べない」という中国人の嗜好は根本のところでは変わっていないと考えたようがいいようです。

ここをどう読んで、どのようなメニュー構成にするかが寿司店の勝負どころになります。

中国人の嗜好に合わせたスシロー

スシローはこの読みが的確でした。以下は、スシロー中国の公式メニューの握りと軍艦、巻物を「生魚」「生介類(魚以外の海産物)」「加熱した魚介類」「魚介ではないもの」の4つに分けて集計したものです。

<スシロー 中国>

生魚:19.5%
生介類(魚以外の海産物):27.3%
加熱した魚介類:28.1%
非魚介類:25.0%
(※スシロー中国のメニュー構成。生ものは46.8%で半分以下に抑えられている。その代わり、加熱魚介類が多い。)

いわゆる生のネタが半分以下になっています。これだけだとピンとこない方もいるかと思いますので、同じくスシローの日本の店舗でのメニューを集計してみました。

<スシロー 日本>

生魚:38.2%
生介類(魚以外の海産物):27.3%
加熱した魚介類:12.7%
非魚介類:21.8%
(※日本のスシローのメニュー構成。生もののネタが多く、日本の寿司屋のイメージに合う。)

すると、日本では生のネタが65%になります。みなさんの想像の中の寿司屋と一致するのではないでしょうか。

つまり、スシローは、中国に進出するにあたって、特に加熱魚介類を充実させました。これにより、中国人の嗜好に適応したのです。

一方、くら寿司は、この対応が甘かったかもしれません。

Next: くら寿司はどこで間違えた?中国で戦うことの難しさ

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