くら寿司はどこで間違えたのか
くら寿司の中国でのメニュー構成は次のようになっています。
<くら寿司 中国>
生魚:26.7%
生介類(魚以外の海産物):32.4%
加熱した魚介類:21.0%
非魚介類:20.0%
(※くら寿司中国のメニュー構成。日本よりは加熱ネタが多いものの、生ものネタがかなり多くなっている。)
生のネタは59.1%となり、日本よりはやや少ないものの、生のネタがかなり多くなっています。
これにより、気になる現象が起きています。中国のグルメレビューサービス「大衆点評」を読んでいくと、くら寿司に対して、数は多くありませんが「ネタが生臭い」というネガティブな評価が散見されるのです。くら寿司のような大手が、劣化した食材を提供しているとは考えづらいため、その人がそう感じているだけだと思います。
しかし、生ものメニューが多いくら寿司では、自然に生ものネタを注文することになります。すると、生食に慣れていない中国人は、生臭いという不快感を感じることがあるのではないかと想像します。ちょうど、私たちが油を多用した中華料理をたくさん食べると、料理としては美味しくても、後で胃もたれなどの不快感を感じることがあるのと同じく、裏返しの現象ではないかと思います。
これにより、大きな問題が発生しています。スシローは1皿10元からの価格設定で、10元メニューを充実させています。一方、くら寿司は12元が基本で、それに加えて高価な高級メニューがあるという設定です。つまり、スシローの方が安い設定になっています。
ところが、大衆点評で、ユーザーが実際に使った額の平均を見ると、スシロー各店は120元から150元程度になるのに対し、くら寿司では100元前後になります。つまり、単価が安いスシローの合計客単価は高く、単価が高いくら寿司の合計客単価のほうが安いのです。
これを1皿の価格で単純計算してみると、スシローでは12皿以上になりますが、くら寿司では8皿程度になります。スシローの方が多くの人がたくさん食べているということになります。これは決定的な問題です。
なぜなら、中国人の食事に対する考え方では、味ももちろん重要ですが、それと同じか、あるいはそれ以上に重要なのが「満腹感」です。大量に注文をして「もうこれ以上食べられない」と言って、お腹をさすりながら帰るということに幸福感を感じます。
これは中国の飲食、特に庶民向けの飲食店では非常に重要な要素であり、最初から量を多くしておくか、ご飯や麺のおかわり無料という仕組みは必須です(ただし、不用意におかわり無料にすると、強者が登場して大量に食べられてしまいます)。スシローの12皿、くら寿司の8皿という試算を考えると、くら寿司はこの満腹感を提供できていなかった可能性があります。生ものメニューが多いために、頼むものがなくなってしまう、あるいは生ものを食べすぎて体に不快感を感じ始めるのではないかということが想像できます。
さらに、スシローの場合、月替わりでサービスメニューを提供していることも大きなポイントになりました。5元から8元のメニューを提供するのです。このサービスメニューが、人気のサーモンかフォアグラの時期は、待ち行列が極端に長くなります。サービスメニューと10元皿でお腹を膨らませ、そして、少しだけ高価な皿の本格的な寿司メニューを味わう。スシローは味と満腹感の両方を満足させてくれます。
くら寿司は、なぜここを失敗したのでしょうか。
日本ではインバウンド対応店などを運営していて、外国人からも人気になっており、食文化の違いを理解していないわけではなく、むしろ、くら寿司の方が、海外進出ノウハウは持っているはずです。