ダイキンの未来を拓く新戦略:AIデータセンターと高成長市場への挑戦
今後のダイキンの成長を考える上で、単なる利益率改善だけでなく、やはり市場全体の需要拡大が不可欠です。ダイキンは景気変動の影響を受けやすい企業であり、住宅着工件数や企業の設備投資の動向がエアコン需要に直結します。特にアメリカの住宅需要の回復は、今後の外部環境として期待したいポイントです。
そして、もう一つ、非常に大きな成長ドライバーとして注目されるのがAIデータセンター関連技術です。
<AIデータセンター市場の急成長と冷却技術の重要性>
生成AIを中心に、AIの発展は膨大な電力消費を伴い、大量の熱を発生させます。この熱がこもるとAIの稼働効率が低下するため、効率的な冷却が不可欠となります。
- 市場トレンドの変化
- 冷却不足の深刻な影響
- 環境への配慮
- 市場規模の爆発的成長
- 冷却技術の多様化
従来の大型データセンターでは、部屋全体を空調で冷やすのが一般的でした。ダイキンは長年の大規模ビルや工場の空調を手掛けてきた経験から、こうした広範囲を効率的に冷やす大型空調機や冷水設備を得意としてきました。しかし、AIやクラウドサービスの急速な普及により、サーバーをより小さなスペースに高密度で詰め込むケースが増加。この環境では、従来の部屋全体を冷やす方法だけでは、熱を効率的に処理しきれないという問題が生じています。特に都市部や通信拠点に設けられる小規模で高密度型のデータセンターでは、より集中的で省エネな冷却が求められています。
2022年には記録的な熱波により、データセンターの空調機器が故障し、GoogleやOracleのクラウドサービスが一時的に利用不能になる事態も発生しました。
データセンターの稼働は温室効果ガスの増加にも繋がるため、効率的な冷却技術を取り入れたデータセンターの整備は、脱炭素の観点からも非常に重要です。
データセンター冷却市場は、2025年には約300億ドル規模ですが、2035年には1000億ドルを超える見込みです。この間の年平均成長率は12%と、非常に高い成長が期待される領域です。サーバー自体が大量の熱を発生させるため、冷却の必要性は高まる一方です。
従来の全体冷却に加え、部品に直接冷たい液体を流す方法や、サーバー機器を液体に沈める液浸冷却など、消費電力を抑えながら冷却を進める技術トレンドが進んでいます。
戦略的買収:DDCS社とのシナジーで冷却ソリューションを強化
このような市場の動きの中で、ダイキンは積極的な行動に出ています。2024年8月6日、AIデータセンターの冷却技術強化に向けて、アメリカのDDCS社を買収する基本合意を発表しました。
このDDCS社は、ダイキンが従来強みとしてきた業務用の大型空調機とは異なり、サーバーラック単位の個別空調に関する独自の冷却技術を持っています。これにより、ダイキンは「部屋全体を冷やす」という従来の方法に加え、「個々のサーバー機器を冷やす」という技術も取り込むことができ、小規模かつ高密度なデータセンターの需要増加にも対応できるようになります。
さらに、ダイキンは2023年にもアメリカの空調機メーカーを買収しており、そこでは設備の運転を最適化する空調制御技術を取り込んでいます。これは、単に冷却機器を販売するだけでなく、効率的な管理を継続する仕組みを提供することで、アプライド事業全体の付加価値を高めようとする戦略の一環と言えます。ダイキンは冷却設備の遠隔監視や異常・性能低下の早期発見など、予防保全サービスにも力を入れており、これらを通じて継続的な売上と利益の拡大を目指しています。
アプライド事業の営業利益率は、2023年時点でアメリカにおいては約2%と、全体の利益率(8~10%)と比較して低い水準でした。ダイキンはこの領域の利益率を8%程度まで引き上げる目標を掲げており、今回のDDCS買収は、このアプライド領域に新たな付加価値を加え、収益性を高める戦略だと考えられます。
AI投資の再加速が見込まれる中、ダイキンは単なる空調メーカーとしてだけでなく、AI関連銘柄としても市場から注目される可能性を秘めています。
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