公共機関温存は国民総意へ
朝鮮は、日本の植民地になるまで500年間、李朝に支配されていた。専制主義政治体制で、官僚機構の両班(ヤンバン)が絶対的権力を握っていた国家だ。普通であれば、こういう両班は搾取階級として不人気だが、韓国では逆に今も憧れの職業(公務員)である。権力者としての両班へ憧れている結果だ。この「両班」人気が、現代の公務員熱である。この流れから、韓国では公共機関勤務が人気職業であり、公共機関整理は国民の夢を奪う「蛮行」のそしりを免れない。こうして、韓国の「公共機関天国」が続いている。
公共交通機関における無賃乗車問題は、韓国における理念先行と現実の立遅れとの大きなギャップを示している。韓国は「信用乗車方式」を選択し、改札を省略することで乗客の利便性を優先するという建前に執着した。これには、人間が不道徳行為を行なわないという崇高な前提がある。
朝鮮李朝は、儒教を国教として道徳を最優先する社会を目指した。人間は道徳を積むことで悪事を働かない「性善説」が前提になっている。「性悪説」に立つ改札は、無意味になる。こういう意図によって、設備投資と維持費のかかるデジタル化投資まで放棄する結果になった。夢のような仮定に基づく行政措置である。現実は、この理想の前提が破られ年間30万人もの無賃乗車を生み出している。人間は、不道徳行為をしないという理念先行が、現実の「信用乗車方式」の抜け穴によって破綻し、財政が穴埋めを強いられているのだ。
日本では、デジタル化投資によって改札業務から人間を解放した。改札窓口の職員が、切符を改める代わりにデジタル化がその機能を果している。これは、韓国の信用乗車方式よりはるかに実利的である。日本の特色は、「中庸」と「ミニマイズ」(最小化)にある。中庸とは、極端な理想主義でもなければ、ガチガチの現実主義でもないという意味だ。同時に、無駄を省く最小化も実現している。改札のデジタル化は、中庸とミニマイズの日本型混交スタイルである。それが、見事に成功したのだ。
JR東日本は、2001年に「Suica」を導入したが、交通系ICカードの先駆で世界的にもかなり早い段階で実施した。これは、時代の先取りであった。韓国が、改札廃止による無賃乗車激増問題に直面したのと比べ、日韓どちらのデジタル化が進んでいるか、にわかに判定し兼ねる状態だ。韓国は、上辺だけのデジタル化「未来志向」である。現実には、歴史的伝統の「過去志向」と厳しいせめぎ合いの状態にある。
日韓真逆のデジタル化思想
日本のJRが展開している自動改札システムは、デジタル化と効率化の面で非常に優れたモデルである。運賃計算がリアルタイムで行われ、ICカードなども普及したことで、利用者の利便性と鉄道会社の収益管理が高い次元で両立している。無賃乗車が付け入る余地は100%ゼロである。
デジタル化先進国の韓国が、JRのようなシステムを採用しない背景はすでにみてきた。ここで、総括として日韓のデジタル化思想に触れておきたい。この点が、両国のデジタル化の将来を占う手がかりになるからだ。
1)韓国のデジタル設計思想は、政府主導の中央集権型・統合的効率化である。住民登録番号を軸に、行政・民間サービスが統合されている。スピード重視の導入である。まさに、理念先行であり、政府の「一声」で進むスタイルである。
2)日本のデジタル設計思想は、現場密着型・漸進的最適化である。「現場の声」や「安全第一」の思想が根強く、技術導入は慎重かつ段階的だ。Suicaや改札レス乗車など、利用者体験を重視した設計が特徴である。
JR東日本では現在、改札機にタッチせず乗車できる「改札レス乗車」の構想が進んでいる。2028年には、スマートフォンの位置情報を活用した新しい乗車システムの導入が予定されているほどだ。不正乗車ゼロという実績は、技術と人間の協調の成果と指摘されている。JR東日本は、技術革新の牽引役として世界の鉄道業へ影響を与えているのだ。