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ついに中国「EVバブル」崩壊。BYD危機で見えた習近平主導“補助金頼み経済”の限界=勝又壽良

中国EV最大手のBYDが揺らいでいる。7月の販売台数は前年同月比わずか0.7%増にとどまり、急成長を支えてきた金融スキームも当局の規制によって崩れ始めた。過剰投資と値下げ合戦に追い込まれた現状は、不動産バブルの崩壊と驚くほど似通っている。中国経済の「2連敗」を象徴するEVバブルの行方を読み解く。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

中国EV最大手「BYD」急失速…いったい何が?

BYDは、中国自動車業界を牽引し飛ぶ鳥を落とす勢いであった。EV(電気自動車)が売れに売れたからだ。そのBYDの7月の新車販売台数は、前年同月比0.7%増という信じがたい結果に終わった。中国の自動車需要が、明らかに停滞期入りを示している。BYD自体にも、超えるに超えられない金融面の緊急事態が起こっている。

ここで注意すべきは、不動産業界が21年1月に当局の借入れ総量規制によって絶頂期が終わったことだ。その象徴的事例が、中国恒大集団の経営蹉跌である。恒大集団は、銀行借入規制によって急坂を転げ落ちるように、経営不振に陥った。こういう先例があるだけに、BYDの先行きにも十分な注意を払うべきであろう。EVも、政府の支援でバブル化していたのだ。背景は、次のようなものである。

中国は今なお、不動産もバブル崩壊から立ち直れずにいる。習近平国家主席は、このリカバリー役として「新三種の神器」を取り上げた。EV・電池・太陽光パネルである。たっぷりと付けられた政府補助金という「エンジン」によって、一斉に増産投資へ走った。最後は、不動産バブル同様に過剰投資による価格低迷で終わった。不動産バブル演出の隠れた主役は、地方政府である。今回の新三種の神器も、補助金を提供したのは地方政府だ。こうして地方政府が、EV過剰生産でも「悪役」になった。

中国式社会主義は、政府がすべて音頭を取って経済政策を決めるルールだ。その結果が、不動産とEVなどでの「二連敗」である。中国は、こういう絶望的状況に追い込まれている。解決策はあるのか。残念ながら見当たらないのだ。性懲りもなく、今後も政府が経済政策の旗を振り続ける意思である。

手形サイト60日規制へ

当局は今年6月1日、自動車業界へ支払手形の短縮化を求めた。60日を限度とするという厳しい内容である。実は、BYDは業界トップ企業でありながら、平均手形サイト(期間)が最も長いという「不名誉」な記録を持っている。米ブルームバーグ通信社が、計算した手形サイトは次のようになっている。

   2021年  2022年  2023年
BYD:198.0  219.0  275.0
NIO:197.0  247.0  295.0
Tesla:113.0  112.0  101.0
(※単位:日)
出所:『ブルームバーグ』(2024年5月20日付)

BYDは、23年で275日である。サプライヤーが、BYDへ納品しても手形決済は275日後である。その時点ではじめて、現金支払が可能になるという徹底的な「下請け」虐めの構造である。日本でも、高度経済成長時代に支払われ手形の一部には、「お産手形」と称して10ヶ月後の支払いという例もあった。現在の中国は、明らかに手形長期化によって、大企業が支払を遅らせその間の金利を節約する事態が発生している。

こういう異常事態が、急成長した自動車業界で発生したのは、成長を急ぐ設備投資優先が招いた結果だ。これによって、次のような「ループ」が形成された。すなわち、過剰投資→過剰生産→価格低下だ。地方政府の補助金が、過剰投資を煽ったのである。BYDは、この混乱の中で生き抜くべく、過剰投資の先頭に立った。その金融面の歪みが支払手形の長期化である。サプライヤーへ支払うべき現金を設備投資へ回したのである。

ところが、ここに予想外の「伏兵」が現れた。当局による、支払手形期間60日規制である。これまでBYDは、275日の平均支払手形期間であった。それが、一挙に8割も短縮するのだ。通常なら実現は不可能である。こういう難題が、現在のBYDへ降りかかっている。資金繰り面で大きなストレスがかかった。

BYDが、この事態を乗切るには設備投資抑制と自動車在庫の現金化しかない。手っ取り早く行なうには、さらなる値引きだ。8月29日、主力のEVセダン「秦L」の価格を1万元(約20万円)値引きすると発表した。航続距離が470kmのモデルの場合、9月末までの期間限定で10万9,800元(約219万円)で販売するとしている。

この値引き余波は、日本にまで及んできた。値引き期間は9月末まで。セダンEV「シール」や小型EV「ドルフィン」のほか、4月に発売したばかりの多目的スポーツ車(SUV)「シーライオン7」も対象に加えている。値引き幅は、50万~117万円と大幅である。シールの四輪駆動モデルは117万円と安くし、実施中の販売促進とあわせて455万円から購入できる「出血サービス」である。

ここで気づくのは、BYDが中国と日本で同時に9月末までを「特価期間」としていることだ。この間に、少しでも現金化しようという戦略である。目的は、営業キャッシュフローの改善である。

Next: 始まった中国経済の崩壊…EVも不動産も落し穴へ

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