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ついに中国「EVバブル」崩壊。BYD危機で見えた習近平主導“補助金頼み経済”の限界=勝又壽良

重要なキャッシュフロー

ここから、少しだけ専門的な分析が必要になるので、ご辛抱いただきたいと思う。

いま、営業キャッシュフロー(CF)という言葉を使ったが、煎じ詰めれば営業(売上)によって、どれだけキャッシュ(現金)を得たかを示すもの。企業にとっては、重要は指標だ。

売上を得るには、設備投資が不可欠である。その設備投資には、どれだけの営業CFをつぎ込んだか。こうして、営業キャッシュフロー(CF)から設備投資キャッシュフロー(CF)を差し引いたものが、フリー・キャッシュフロー(CF)と呼ばれ、企業の重要な成長発展の「原資」とみなされている。

復習すると、次のようになる。

営業CF - 設備投資CF = フリーCF

フリーCFが黒字であるのは、売上と設備投資がバランスが取れていることを意味する。逆にマイナスになるのは、設備投資が過剰であることを示す。

BYDは、それまで黒字であったフリーCFが、25年に入って突然のマイナス状況へ落ち込んだ。25年1~3月期のフリーCFは、なんとマイナス2,840億元(約5兆9,000億円)に落ち込んだ。24年通年では、3,656億元(約7兆3,120億円)の黒字であった。それが、一転してマイナスへ落ち込んだ。

この急落した背景には、以下のような要因が重なっているとみられる。

1)設備投資の増加
2)在庫の積み上げ
3)EV価格低下

これら3要因を貫く共通要因は、EV需要の落ち込みである。EV生産が、これまでの勢いで伸び続けるという想定が狂ったのだ。BYDは特に、支払手形の平均サイトを275日まで引き延し、その間の金利負担ゼロの資金を設備投資へ振り向けてきた。そういうアブノーマルな経営に異変が始まった。需要減が起こったのだ。設備稼働率は、急激な低下となったであろう。

先ごろ発表されたBYDの25年上期(1~6月)決算では、フリーCF赤字が426億元(約8,520億円)と縮小している。設備投資の縮小・在庫整理を行なってフリーCFの赤字化を縮小したとみられる。先に挙げた9月までの値引き販売は、さらなる在庫整理に拍車を掛ける結果であろう。

EVトップ企業のBYDが、ここまで追い込まれているのは、中国自動車業界が大きな転換点にあることを物語っている。中国の自動車大手の業績が悪化しているのだ。

自動車業界大手6社(BYD、吉利汽車、長城汽車、上海汽車、東風汽車、広州汽車)の25年上期(1~6月)決算では、BYDの14%減益を筆頭に軒並み減益。広州にいたっては、赤字へ落ち込んだ。販売台数は、東風と広州が減ったが他は増えている。収益悪化は、値下がりが直撃した結果だ。『日本経済新聞』が報じた。

中国自動車業界は、25年に入って営業環境が180度も変った。この状況は、7月に入ってさらに悪化している。BYDは、7月の新車販売が前年同月比0.6%増と発表。6月までの伸び率は10%を超えていた。それが、急激な成長鈍化へと屈折した。国内販売は、直近のピークだった3月以降、4カ月連続で前月比マイナスとなっている。

EVも不動産も落し穴に

ここで、中国自動車業界の経営が、いかに「前近代的」であるかを指摘しなければならない。

それは、単に自動車業界だけという固有のものでないことだ。すでに、不動産業界の借金依存経営の脆弱性に、それが端的に表れていた。消費者への「青田売り」という形である。消費者が払う住宅ローンを原資にして建物を竣工させることは、企業がリスクを負わないという点で「ノーリスク」経営である。それが、野放図な不動産バブルを生んだのである。

自動車業界は、部品サプライヤーへ購入資金をすぐに払わず、BYDのように275日の平均支払サイトと長期化させた。BYDは、自動車を製造して販売し終えたあとも、サプライヤーへ部品の代金を支払わなかった。これは、「ツケ払いモデル」と呼んでいいものだ。BYDの資金繰り負担は、サプライヤーに転嫁させる奇妙な経営である。

BYDは、この金利負担の掛らない資金によって設備投資を強行した。これは、不動産業界の「青田売り」と同じ発想である。自動車業界は、サプライヤーの金利負担によって成長した。不動産業界は、消費者負担で発展した。これでは、経営リスクを自らが負うことがないので、必然的に野放図経営に落ち込んで当然と言えよう。

地方政府がその上、設備投資など初期投資から補助金を用意した。こんな温室的状況では、中国に真っ当な「企業家精神」など育つはずがない。経営リスクは、すべて第三者が負ってくれるという微温経営である。大きなリスクは、地方政府や消費者、サプライヤーへしわ寄せし、ただ表面的な利益を競っていたに過ぎない。

Next: EVバブルの終焉。400社あったEVメーカーがわずか数十社に…

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