岩谷産業の株価はなぜ暴落したのか?水素への期待と現実
岩谷産業の株価は、2023年から2024年にかけて大きく上昇した後、急落し、足元で緩やかに回復しているという推移を辿っています。現在のPERは約7.7倍です。

岩谷産業<8088> 週足(SBI証券提供)
<株価を押し上げた「水素関連ニュース」の期待(2024年前半)>
2024年前半に株価が大きく上昇した主な要因は、水素関連の好材料が相次いで報じられたことです。
- 次世代原子炉での水素製造
- 水素社会推進法の成立
2024年4月、「次世代原子炉で水素製造へ 安全性工 28年にも実証」というニュースが流れ、岩谷産業の株価は一時的に約6%上昇しました。古くから水素に取り組む同社への事業拡大期待が高まったためです。
2024年5月17日には、「水素普及へ 割安天然ガスとの価格差補助、水素社会推進法が成立」というニュースが出ました。これは、水素関連事業者がビジネスを進めやすいよう、国が最大15年間にもわたる中長期的な補助金や支援策を講じるという内容です。水素の価格競争力を高めて需要を喚起し、企業の参入や投資を促す狙いがありました。
これらの法整備や実証実験に関するニュースが岩谷産業にとって大きな追い風となり、株価を大きく押し上げました。
<株価暴落の引き金となった「失望決算」と「ヘリウム市況の悪化」(2024年8月以降)>
しかし、2024年8月頃をピークに株価は大きく下落に転じます。
- 日銀ショック
- 期待外れの決算
2023年8月の日銀による金利引き上げ観測報道も、全体的な株価下落に少なからず影響を与えました。
期待が高まっていた中での2024年8月の決算発表(2025年3月期第1四半期)が、投資家の失望を招きました。特に、産業ガス機械事業が苦戦したことが響き、通期予想の営業利益が当初プラス4%からマイナス8.7%へと大きく下方修正されました。
この産業ガス機械事業の不振は、水素事業が期待外れだったためではありません。むしろ、宇宙開発や脱炭素用途での液化水素販売数量は増加していました。真のマイナス要因は、中国を中心としたヘリウム市況の軟化にありました。
欧米の経済制裁の影響で、ロシア産のヘリウムガスが大量に中国市場に流入し、市場価格が大きく下落しました。これにより、岩谷産業のヘリウムビジネスは採算が合わなくなり、業績に大きな悪影響が出たのです。このヘリウム市況の悪化は、通期にわたって産業ガス事業の利益を押し下げる主要因となりました。

出典:岩谷産業 決算説明資料
<足元の株価回復要因>
2025年4月に株価が底を打った後、現在は回復傾向にあります。ヘリウム市況は依然として厳しい状況が続いているため、この回復を業績だけで説明することは難しいでしょう。
- 過度な割安感
- 日本株全体の好調
株価が底を打った時点でのPERは約5倍と、いくらなんでも安すぎるという判断が市場で働いた可能性があります。
日本株全体が好調なことや、円安によるリスク減退なども相まって、株価が上昇してきたと考えられます。
現在の株価はPER7〜8倍程度の水準で落ち着いています。
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