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韓国、TPP加盟で経済復活を狙うも実現不可能?「反日」が理性的判断を阻む構造的ジレンマ=勝又壽良

韓国の金民錫首相は9月8日、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟検討を表明した。背景にあるのは、トランプ政権の関税政策によって年間20~30億ドルの対米輸出減少が予測される深刻な状況である。しかし、TPP加盟には「日本主導への屈服」という反日感情の高まりと、OECD最多の350社を抱える公営企業改革という2つの国内的障壁が立ちはだかる。韓国は経済的必要性と国民感情の板挟みの中で、難しい選択を迫られている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

韓国「TPP加盟」検討も、反日感情が壁に…

韓国の金民錫(キム・ミンソク)首相は9月8日、TPP(環太平洋経済連携協定)へ加盟する検討を始めたと、日本経済新聞のインタビューで答えた。過去の韓国政権が、一度は取り組んだ問題であり、李政権が本格的に取り組む姿勢を明らかにした。加盟時期などの具体論には踏み込まず、アドバルーンを上げた形である。

過去の政権は、米韓自由貿易協定(FTA)によって事実上、関税ゼロで対米輸出できる特典に浴してきた。この特典は、不運にもトランプ政権の関税政策によって消え失せた。韓国は、新たな15%関税で、年間20~30億ドルの対米輸出が減ると深刻な様相をみせている。代替手段を早急に探さねばならない。そこで、TPP加盟が有力手段として浮上している。

韓国は、各国との自由貿易協定を積極的に結んでいる。TPP加盟国の中では、日本とメキシコだけが自由貿易協定を結んでいない相手国である。韓国は、日本との貿易で「万年赤字」に陥っているので、TPP加盟はデメリットになる。ただ、メキシコは米国の隣接国という立地上の大きな魅力を秘めている。さらに、ASEAN加盟国を足場にして対米黒字を増やす戦略も立てられる。こうした総合的視点から、TPP加盟によって、輸出立直し戦略を模索している。TPP加盟は、韓国経済にとって「絶対不可欠」な条件だ。

以上の説明は、韓国政府が描いている皮算用である。ただ、韓国の描く構図取りに進まない障害が控えている。それは、韓国国内が抱える固有の問題だ。TPPは、世界で最高の自由化水準を誇っている。韓国は、これにパスしなければならない「受け身」の立場に置かれているのだ。TPP原加盟11ヶ国(英国が加盟して現在12ヶ国)は、それぞれの国内事情を抱えていたが、互いにそれを認め合う形で発足した。新規加盟国では、そういう「国内事情」を認めず、TPP規定通りの高い水準が適用される。

韓国は、TPP加盟に当たり自国で解決しなければならない問題点が2つある。

1)TPPを仕切っているのは日本である。この点は、韓国でもよく知られている事実だ。それだけに、TPP加盟に当たり韓国が譲歩すれば、「日本に屈した」という反日感情に火を付けることが懸念される。

2)韓国は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、公有企業の数が最も多い國である。TPPでは、公有企業に対して「市場原理」導入を要求する。となると、地方の雇用や生活インフラを担う公有企業の合理化には、「国民生活を脅かす」という感情的反発が起こるリスクを抱える。

これら2点に共通しているのは、感情論である。韓国は、他国に比べて国民感情が理性的判断を上回る国である。TPP加盟が、韓国経済の発展に不可欠としても、それを単純に受入れない国民感情の壁に注目しなければならない。韓国には、こういう難しい固有の壁があるのだ。

米関税が対米輸出にマイナス

韓国が、トランプ関税15%によってどの程度の影響を受けるのか。先ず、この試算をしておきたい。これを認識すれば、TPP加盟不可避という議論が理解できるであろう。

韓国の対米輸出は、GDPの約5%を占めている。15%の輸入関税が課されると、価格転嫁に伴い輸出量の縮小が避けられなくなる。関税分が、そのまま価格へ転嫁されるという前提では、15%の関税で輸出量は最大15%程度減少し、輸出額ベースでGDPの約0.75%分に相当する削減リスクが予測される。これらによって、2026年以降に米国市場向け輸出は年10~20億ドル規模で落ち込む懸念が高い。

ついでに、トランプ関税による日本への影響を計算してみよう。日本の対米輸出は、GDP比で約3%前後である。こうして日本は、GDPで約0.5~0.6%分のマイナス計算となる。韓国は、5%の対米輸出依存度と日本より高い結果、15%関税による打撃が日本よりも大きくなるのだ。

以上の計算をみれば、韓国がトランプ関税によるマイナス影響が大きいだけに、この穴をどのようにカバーするかが重大問題だ。韓国が、これまで敬遠してきたTPP加盟を真剣に検討するほかない状況が生まれているのだ。

Next: TPPに入れなければ韓国終了?メリットは大きいが…

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