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最終利益63%減「ヤマハ発動機」株は買いか?下方修正の真相と長期投資家が注視すべきリスク=元村浩之

「繰延税金資産の取り崩し」とは何か

なぜ営業利益が増えているのに、最終利益が63%も減ってしまったのでしょうか。
その原因は「繰延税金資産の取り崩し」という会計上の処理にあります。

繰延税金資産とは、非常に簡単に言えば「将来使える税金の割引チケット」のようなものです。
これは会計上の利益と、税金を計算する際の「所得」のずれを調整するために存在します。
例えば、会計上では先に費用として計上しているけれど、税務上はまだ認められていない場合、一旦は税金を多めに支払っておきます。
しかし、将来的に十分な儲け(利益)が出るのであれば、その時に税金を安くしてもらえる権利として「資産」に計上できるのです。

ところが、将来の儲けが当初の予想ほど出そうにないという判断に傾くと、この「割引チケット」を使う機会がなくなってしまいます。そうなると、資産として計上していたものを消さなくてはいけません。これが取り崩しです。
資産が消えるということは、その分が損失のように働き、最終的な利益を大きく押し下げる要因となります。

米国における「追加関税」と「コスト増」のダブルパンチ

繰延税金資産の取り崩しが意味する最も重い事実は、会社側が「将来の業績見通しが悪くなっている」と公に認めたことにあります。

ヤマハ発動機の説明によると、同社単体および米国の主要子会社であるヤマハ・モーター・コーポレーションUSAにおいて、将来の回収可能性を慎重に見積もった結果、今回の処理に至ったとしています。

その背景にあるのが、米国における「追加関税によるコストの増加」です。

ヤマハ発動機にとって北米市場は最大の稼ぎ頭であり、非常に重要な地域です。
そこにおいて、昨今の関税を巡る動きがダイレクトに悪影響を及ぼし始めています。

足元の状況を精査すると、主力であるモーターサイクル(二輪)事業では、北米の販売台数が前年比で92%にまで落ち込んでいます。

関税の影響そのものは全体の利益下落要因の中で極めて大きいとまでは言えませんが、それ以上に販売の鈍化や、原材料費・物流費といった諸々のコスト上昇分を価格転嫁でカバーできていないという苦しい台所事情が見て取れます。

マリン事業の変調は富裕層の「道楽」が冷え込んだから

さらに深刻なのが、利益率の高いマリン事業です。

この事業の主力である船外機の販売台数自体は、実は前年比107%と増えています。
しかし、売上収益の数字を見ると、対前年で92%にまで下がっているのです。
台数は出ているのに、売上が減っている、これは「売れているものの単価が下がっている(ミックスが悪化している)」ことを意味します。

マリン事業、特にレジャー用の船外機にはピンからキリまであります。

これまでは、富裕層が釣りに行く際に、ハイスピードでスポットまで到達するために必要な「超大型・ハイパワー」なエンジンが飛ぶように売れていました。
これらは非常に高額で、利益率も極めて高い製品です。しかし、現在の米国では高金利やインフレの影響により、こうした大型モデルへの需要の強さが顕在化していません。
つまり、富裕層の「遊び」に対する消費が、明らかに一服してしまっているのです。

ヤマハ発動機側は「中長期的な需要拡大の流れに変化はない」と説明していますが、繰延税金資産を今回取り崩したという事実は、将来の業績見通しをより保守的に見ざるを得ないという決意の表れでもあります。

今回の下方修正は決して一時的な会計上の処理ではなく、米国の実体経済の悪化を反映した根深いものと捉えるべきでしょう。

Next: 同じように厳しい企業はある?投資家がヤマハの事例から学べること

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