巨額赤字と「経営安定基金」のからくり
業績を見ると、驚くことに昨年度は4,330億円もの最終赤字を計上しています。これから上場する企業としては異常なことです。
実はこの巨大な赤字にはJR九州が抱える特殊な事情が表れています。
JR九州をはじめとする「三島会社」は経営が苦しくなると考えられていたことから、民営化当初より「経営安定基金」という名目で投資運用資金をもらっていました。JR九州は約4,000億円です。そこから生まれる利息で鉄道事業の赤字を補填していたのです。
上場にあたって、このような「おこづかい制度」は終了せざるを得なくなりました。国会審議の結果、この4,000億円は「手切れ金」として、JR九州が使えることになりました。その用途は、JR九州が借りている新幹線路線の貸付料の前払いや、借入金の返済に決定されました。
こうして、本当の意味での「民間会社」として、晴れて上場を迎えることになります。
しかし、経営安定基金が終了したことよって会計上の問題が生じました。これまで鉄道事業は経営安定基金の利息で赤字を穴埋めしていたところ、経営安定基金がなくなると赤字になってしまいます。
会計原則では、事業資産は生み出す利益に応じて再評価するため、JR九州は資産の大部分を占める鉄道資産を「価値のないもの」として減損処理しなければならなかったのです。こうして約5,200億円の特別損失を計上しました。
ただし、この赤字は一過性のものです。1回減損処理してしまえば二度、三度起こることはありません。資産の大部分を減損処理してしまっているため、これから減損が起きる可能性が限りなく低くなっているのです。ここは液晶事業に失敗して複数年度に亘って多額の減損処理を強いられたシャープとは大きく異なります。
しかし、鉄道事業が不採算であることがより明確になったとも言えます。それをどのような事業で補うのかがJR九州の成長のカギを握っています。