危機にひるむことなくアクセルを踏み続けた
2011年12月期には、継続企業の前提に関する疑義も消え、「普通の会社」に回復することができました。急場をしのいたことで、再びペッパーランチを中心とした事業戦略で成長を図ります。
しばらくは、淡々と出店を行いコスト抑制を図る地道な努力が行われ、2011~2013年は何とか黒字を確保しました。関係者はようやく安堵できたというところでしょう。
普通の感覚であれば、ここから無理せず改善を続けていくことを目指したでしょう、しかし、一瀬社長はここで大きく舵を切りました。2013年を「大改革元年」と位置づけ、新業態の開発など新たなチャレンジを目指したのです。
その中で生まれたのが、「いきなり!ステーキ」です。立ち食いで高価な料理を提供する「俺のイタリアン」を真似たものですが、「銀座×ステーキ×立ち食い」の話題性からメディアで盛んに取り上げられました。2013年12月に1号店を開くと、2014年中には一気に30店舗にまで拡大させたのです。一瀬社長は安定を望むどころか、逆にここぞとばかりに勝負に出ました。
結論から言うと、その勝負は大当たりしました。「いきなり!ステーキ」は瞬く間に同社の稼ぎ頭に躍り出、店舗増加数は2015年に47店舗、2016年に38店舗、2017年に73店舗と、まさにアクセル全開です。
店舗数がゼロからわずか4年で188にまで増加したことで、売上・利益も急拡大します。2013年から2017年にかけて、売上高は6倍、純利益は9倍に増加しました。「いきなり!ステーキ」が売上高に占める割合は、75%にまで拡大します。
大ブームを引き起こし、株価は1年間で10倍に
業績がこれだけ拡大すれば、当然株価も大きく上昇します。2017年入ってから急上昇しはじめ、その年のうちにテンバガー(10倍株)を達成します。1年のうちに10倍を達成できることは滅多になく、まさに夢のような銘柄となったのです。
上昇のきっかけとなったのは、業績予想の上方修正です。2017年の予想純利益は、当初発表(2月14日)が前年比18%増だったところ、2度の修正(4月28日、7月14日)を経て一気に3倍にまで拡大すると発表したのです。この材料に投資家は飛びつきました。
マーケットに張り付いている投資家なら、修正が出て株価に動きがあった時点で参入できたかもしれません。しかし、普通の投資家が瞬間的に取引することは現実的ではありません。もし参入できたとしても、すでに高値掴みになっている可能性があります。
普通の投資家がこの波に乗るには、2016年以前に仕込んでおく必要があったでしょう。しかし、後になってからだと簡単に見えますが、いざ目の前にするとそうはきません。私たちは、明日のことですら未来のことは正確に予測できないのです。
予測できない未来を察知するには、予兆を見つけなければなりません。ペッパーフードなら、何よりもまず売上高の拡大でしょう。「いきなり!―」を開始してから、同社の売上高は急速に拡大していきました。一定の利益率を確保できるとすると、売上高の拡大はやがて利益に結び付きます。
「いきなり!―」は開始以降も引き続きテレビで頻繁に取り上げられていました。認知度の上昇と同時に店舗数を拡大する戦略を取れば、ブームが続いている間は業績を大きく伸ばすことができるのです。
一瀬社長もここを勝負どころと見て、一気に店舗網を拡大させました。この感覚は、長年会社を経営し、酸いも甘いも知り尽くしているからこそできることだと思います。