株価が上がっても給料は増えません。企業が儲かれば労働者も潤うとの論理はすでに破綻しています。いったいどうすればこのアンバランスは改善するのでしょうか。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2018年9月28日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
なぜ政府は気付かない。企業が儲けても、労働者にお金は行かない
利益を上げる企業と、給料が上がらないサラリーマン
何事にもバランスが大事です。昨今の日本では、企業収益が過去最高を更新する一方で、賃金が伸び悩み、労働分配率が低下を続けるというアンバランスが見られます。
その点、政府からは、このところ賃金・雇用が増え、雇用者報酬はGDP(国内総生産)の伸びを上回るようになったと、胸を張ります。しかし、日本の労働、賃金統計には不備が多く、現実には雇用者報酬の伸びはかなり「水ぶくれ」しています。
これを賃金と雇用数に分解して見てみましょう。
賃金統計の嘘
賃金では厚生労働省の「毎月勤労統計」が今年から調査サンプルを変えたことに伴い、1月から不自然に賃金の伸びが高まりました。
例えば、ベアの時期でもないのに、所定内給与がそれまで0.2%前後だったのが1月から突然前年比1%前後の伸びに高まりました。
これに伴って現金給与総額も全体的に高い伸びとなり、これが雇用者報酬の伸びを高める一因になりました(さすがに当局もこれを認め、同一サンプルでの伸びも別途公表するようになりました)。サンプル替えによって賃金の伸びが1%近く高まったことになっているのです。
これは経済実態とは関係なく、統計処理上の問題で、実体は依然として低い賃金の伸びが続き、物価が上がると実質賃金はすぐにマイナスになる状況です。
信用できない雇用者数
雇用者数についても、総務省の労働力調査は雇用を過大表示、失業者を過少表示している可能性があります。
例えば、平成27年の国勢調査の結果では、雇用者数が4661万人となっていますが、労働力調査では同年で5663万人となっています。失業者については、国勢調査が260万人とする一方、労働力調査では222万人となっています。国勢調査との乖離が大きすぎます。
結局、雇用者報酬は一人当たり賃金と雇用者数の掛け算になりますが、賃金も雇用も過大推計の可能性が高く、雇用者報酬は実態を表していないとみられます。
一方で、財務省の「法人企業統計」では企業収益が好調を続けているため、企業の付加価値に対する人件費の割合、つまり労働分配率がこの5年間でみても低下を続けています。