国防費の増加が中国財政を圧迫する
習近平氏の国家戦略は、中華帝国の戦略そのものです。内政よりも海外進出を優先する戦略です。
歴史上の帝国は、すべてこの道を踏襲しました。中華帝国は、ユーラシア大陸で版図を拡大したのです。黄河の中原から始った漢族が現在、56の少数民族を抱える国家へ拡大したのは、漢族による周辺の少数民族を侵略・支配した結果と言えます。
習氏は、これでは飽き足らず海洋進出を始めました。南シナ海の9割は中国領海という、根も葉もない話を作り上げ、不法な占拠をしています。空母も3隻保有するという膨大な軍拡によって、軍事国家へ姿を変えました。
今後の国防費増加が、潜在的な経済成長率低下のなかで、中国財政を圧迫することは不可避となりました。
人口減が海外戦略を狂わす
ここで厄介な問題が持ち上がったのです。出生率の急低下に伴う年金財政の逼迫(ひっぱく)化です。
中国財政は今後、軍事費と年金を含む社会保障費の綱引きが始まります。社会主義国家を看板にしている以上、国民にそれにふさわしい年金を支給する義務が発生します。国民に選挙権も与えず、一方的な命令で政治を行なっている以上、国民は「当然の報酬」と考えても不思議はありません。
中国の平均退職年齢(作業員は50歳、女性管理職が55歳、男性管理職が60歳)は、世界的に見てもかなり低いのです。職業的に経験豊富な多くの人々が、まだ十分に勤務可能であるにも関わらず退職しています。
年金を受給しながら老後を楽しむことを選好し、それを実現するのが政府や社会の義務だと考えているからでしょう。
そう言えば、老後は子どもの面倒になることが、理想的な生涯という考え方もあったのです。これは人材面でもったいないことであり、若い労働者が支えなければならない引退者がさらに増えることを意味しています。
日本では、年金支給開始年齢を現行の65歳から70歳に引き上げる案が検討されています。これは、日本人の勤労観が中国と全く異なるからでしょう。日本人は、元気な間は働きたいという人が圧倒的です。それでも日本の場合、年金制度は絶えず改革の対象になっていますが、中国ではそれすら話題に上がらないようです。
国家目標が、内政問題よりも世界覇権獲得という国民生活からかけ離れたところにあるからだと思います。