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トランプ大統領の関税政策は米国にとって逆効果?ドルは1/2に切り下げざるを得なくなる=吉田繁治

トランプが、中国に対して仕掛けた貿易戦争の帰結

2018年から米中貿易戦争をしかけ、関税品目の幅と関税率を高くしてきたトランプ大統領が、米国の対外負債の問題を認識しているかどうか、不明です。

しかしトランプは「虎の頭脳」で、本能的に、「ドルが海外に流出する貿易赤字」を問題にしました。このため、貿易額を減少することによって、世界経済を不況にもする中国関税を発動したのです。

ところが米国では、40年前の1980年から国内製造業は空洞化しています。食品以外では、ウォルマート(50兆円)と米国の店舗で売る消費財(衣料、住関連、IT機器、家電)の95%は、海外産です。米国産は、コンピュータやスマホにもない。関税をかけても、海外輸入が減り、国内生産が増えることはないのです。(注)米国の生産がある自動車、兵器、戦闘機、航空機だけが例外です。このため、日本に、黒いF-35ステルス戦闘機を100機売るのです(100億円×100機=1兆円)。

【米国のマネーにとって致命的なドル安政策】

それに、トランプは「中国の元安」を非難しています。米国の金利をゼロに近く下げることで、ドルのチープマネー政策をとるとも言っています。

1990年代のルービン財務長官(元ゴールドマン・サックス(政商的銀行)の会長)は、「ドル高」を言っていました。海外からのドル国債、社債、株の買いを増やすには、ドルが下がらないドル高が条件だったからです。このドル高で、米国のIT株は上がりました。2000年4月に、長短金利(イールドスプレッド)が逆転して、崩壊しています。米ドルをもっとも買ったのは日本です。

トランプが、FRBに金利0%への利下げを強要し、誘導目標が0%に下がったらどうなるか?

【ドル安ヘッジのコストは2~3%】

海外から、米国債、株、社債を買うときのリスクは、ドル安です。米国債は現在、ユーロや円より約2%高い金利がついています。ドル金利は、米ドルを買うときの「ドル安ヘッジ」の保険になっています。

日本、ユーロと2%の金利差がなくなると、ドルへの投資(ドル買い)は「裸のドル安リスク」に晒されます。このリスクは海外からのドル買いを減らすことになり、「ドルの買い超の減少(=ドル売り)によるドル安」に向かうことになるでしょう。

海外に売ることが必要な、年40兆円の米国債が売れにくくなるのです。

結果は、
・ドル安と、
・米国金利の上昇(米国債の価格の下落)です。

今はドルの長期債が売れて、長期金利は1.5%にまで下がっていますが、ドル安になるとともに、ドルの長期金利が上がる(ドル国債の価格が下がる)ようになっていくでしょう。

対外負債が大きく、経常収支が赤字続きの米国にとっては、
・海外がドル国債を買ってくれるには、
日欧より2%は長期金利が高く、ドル高が維持されることが必要
だからです。

トランプの中国関税に加えた、
(1)ドル金利の利下げ要請、
(2)輸入の減少と、輸出の振興のためのドル安の要求は、
(3)米国の経常収支の赤字をファイナンスする資金不足を招き、
逆に、米国の期待金利を上昇させ、国債価格を下げてしまうのです。

金利下げと通貨安のマネー政策は、
(1)国内の製造業がしっかりしている国(供給超過の国)、
(2)経常収支の赤字が大きくない国に、とって有効です。

米国のように、
(1)消費財の国内製造業がなくなった国、
(2)経常収支が大きな赤字で、海外からのドル買いの40兆円超過が
必要な国にとっては、ゼロ金利とドル安は、自滅行為になります。

米国には、1990年代の株価が上がっていたクリントン時代のルービン財務長官の「ドル高政策」が必要です。

パウエル議長を「白痴」とまで言って、逆を行おうとしているトランプ氏のために忠告しておきます。「米国の金利が0%に下がれば、米国は、ひどいことになるからです…」

ドル安とは、世界の外為市場でのドルの売り(ユーロ買い、円買い、元買い)の超過です。ドル売りの超過は、経常収支が赤字の米国では、国債や株を買うドルが不足させます。

債権国の中国や日本なら、通貨安という選択肢があります。米国では、ドル安というオプション(選択肢)は、奈落に落ちることでしかない。

「経常収支が構造的に赤字の米国には、海外がドルを買ってくれることが必要」という知識は、トランプと政権幹部にはないのでしょうか。

Next: ドル安が世界に与える影響とは、どんなものなのか?

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