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チャットワークが成長するためには、ソーシャルワーカーのリスクを軽減する施策が必要

体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

クラウドソーシングで仕事を受注しようとする個人がChatworkを雇うとする際に障害となり得るのは、先に述べたように、クライアントのやり取りをプラットフォーマーが把握できないことです。確かに、同社が提供しているサービスは法的規制を受けています。

当社事業において、Chatwork事業については、主として「電気通信事業法」及び関連法令等の規制を受けており、届出電気通信事業者としての届出を実施しており、ユーザーの通信の媒介にかかる通信の秘密の遵守等が義務付けられております。

しかし、Wikipediaによると、

通信の秘密(つうしんのひみつ)とは、個人間の通信(信書・電話・電波・電子メールなど)の内容及びこれに関連した一切の事項に関して、公権力や通信当事者以外の第三者がこれを把握すること、および知り得たことを他者に漏らすなどを禁止すること。通信の自由(つうしんのじゆう)の保障と表裏一体の関係にある。

としています。したがって、プラットフォーマーが通信の当事者になれば、Chatworkでのクライアントとワーカーのやり取りを把握できることになります。つまり、クライアントとワーカーの双方の合意があれば、基本的にプラットフォーマーは通信の当事者になることができるはずです。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、クラウドソーシングを利用する個人は「安心しChatworkを使うことができる」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

プラットフォーマーが通信の当事者となったとしても、リアルタイムでクライアントとワーカーのやり取りを把握することは現実的に不可能です。したがって、一定の期間、両者のやり取りをデータとして保管しておく必要があります。

そうなると、社内プロセスの統合という意味で同社の課題となるのは、Chatworkでやり取りされたメッセージを低コストで一定期間保管し、それらを通信の当事者が簡単に引き出せるようにすることです。

では、同社がこうした取り組みを進めるのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア──やり取りされたメッセージの数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・Wikipedia(通信の秘密)
クラウドソーシング市場規模、18年度に4倍強‐日本経済新聞(2015年3月2日公開)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月9日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年10月9日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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