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初値はプラス52%、医療ケア事業を行うアンビスHDのさらなる成長に必要なものとは?

体験の構築

用事が特定できたら次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

顧客が医療やケアなど各種サービスを雇うとする際に障害となり得るのは、一つには日頃から看護・介護してくれている担当者が辞めてしまうことです。看護師は慢性的に高く、その背景にはバーンアウト(燃え尽き症候群)があるといわれています。これは一般の看護師だけでなく、同社グループが受け入れている、一般的な介護施設では受け入れることが困難な患者を看護・介護している担当者についても同じことがいえます。

大竹文雄氏たちは『医療現場の行動経済学』のなかで次のように指摘しています。

●他人を思いやる気持ちの強い人の方が看護師に向いている、とは言えない。

●患者の喜びを自分の喜びに感じるような看護師ほどバーンアウトしやすい。

●その特性をもつ看護師は、睡眠薬や精神安定剤・抗うつ剤を常用しやすい。

いずれにしても、行動経済学的な施策によって、担当者のバーンアウトのリスクを抑えることができれば、結果的に離職率を下げることができ、顧客は「つながりを実感する」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

同じく大竹文雄氏たちは『医療現場の行動経済学』のなかで、「医療現場への応用」としたうえで、利他的な「患者の喜びを自分の喜びに感じること』看護師のバーンアウトのリスクを低減させる一つの施策として次のようなことを提言しています。

(前略)もしも純粋に利他的な看護師がバーンアウトしやすいのだとすると、彼らがバーンアウトしやすいような部署で働き続けることは、まず、看護師本人にとってはもちろん望ましいことではないし、それだけでなく、彼らを雇用する医療機関にとっても避けるべきことのはずだ。人事担当者は、看護師がどのような種類の利他性をもっているかを把握しておく必要があるだろう。また、彼らのバーンアウトのリスクに応じて、患者とコミュニケーションを取ることが少ない部署に配置したり、症状が悪化しないような患者と接する部署に配置したりする対応が求められる。さらに長期的な視座として、たとえ純粋に利他的な看護師であってもバーンアウトしないように自分自身で管理できる能力を育成するような研修やプログラムを開発して、彼らに働きかけていくことが大切だろう。

では、同社グループがこういった施策を取り入れるのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──看護や介護する担当者の定着率──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン・M・クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・大竹文雄/編著 平井啓/編著『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(東洋経済新報社)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年11月12日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年11月12日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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