「現金」を持たない持株会社
最後に取れる手段は、ソフトバンクグループ本体がこのファンドに対して融資や増資をして、何とか優先株式の配当を支払うということです。
しかしソフトバンクグループは、実はそんなに「現金」を持っていません。
すでに6兆円の有利子負債があり、ソフトバンクグループ本体が事業を行っているわけではないので、現金を得る手段としては傘下企業からの配当や子会社株式の売却ということになります。
このような流れもあり、アリババ株を含む4.5兆円の資産売却という判断に至ったと考えられます。
ただし、子会社の株式を売ると言うことは、結果としてソフトバンクグループ自体がもぬけの殻になってしまうということ繋がります。それは株主価値の減少を意味するのです。
顧客不在の経営が行きつく先は……
なぜこのような苦境に陥ってしまったのでしょうか。
それは、株式市場は高騰しているタイミングで、スタートアップへの投資というリスクの高いものを、それも優先株式という実質的な債務を使って買うという、無謀な取引を行ったことが根底にあるわけです。
現在のような市場の崩壊があると、リスクの高い行為は逆回転によって次々に問題を引き起こします。現在の慌てようを見ると、このような事態を想定していたのか疑問に感じざるを得ません。
孫さんはもともと「インターネット革命を起こす」と言って、インターネット接続料の値下げや携帯料金の値下げなどに力を入れていました。
しかし、アリババの投資の成功あたりを契機に、お金を増やすことばかり考えて顧客不在の経営を行っているような気がします。決算説明会でも、どれだけお金が増えたかという話ばかりでした。
しかし、お金のことばかりを考えると、やがてツケが回ってきます。
株価は多少回復していますが、今後どのようにして経営と市場評価の回復を図るのか、見通せない状況です。
孫さんはいつも株式が「割安だ」と言っていますが、そう簡単な銘柄ではないことは確かです。このまま行くと、グループの「解体」が現実味を帯びてきます。
しばらくは方向性を見極めたいと思います。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年4月26日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。