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仕組まれた原油暴落。トランプの中国潰しと「コロナ以後」の大胆シナリオ=斎藤満

4月にWTI原油先物(5月限)価格が一時マイナス40ドルを付けました。まさに「逆オイルショック」というべき状況ですが、これが示唆するものは重大です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年4月24日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

歴史的マイナス価格は脱したが

4月にニューヨーク市場で原油先物価格、とりわけ米国のWTI先物(5月限)価格が一時マイナス40ドルという、歴史的な大幅マイナス価格を付けました。売る側がお金をもらうのではなく、逆にお金を払ってまで買い取ってもらわなければならない状況に追い込まれたためです。現物の受け渡しが行われるオクラホマでは貯蔵タンク、パイプラインがすでに満杯という特殊事情もありました。

さすがに限月が6月限に変わり、現物受け渡しの問題が当面なくなったので、WTI6月限の価格はプラスに戻りましたが、それでも10ドル台前半にあり、北海ブレント6月限も一時20ドルを割り込みました。まさに「逆石油ショック」というべき状況ですが、これが示唆するものは重大です。

コロナショックで需要が3割も減少

オクラホマ州の石油貯蔵タンクやパイプラインが満杯状況ということは、すでに米国内で原油需給が悪化していたことを示唆します。米国がシェールオイルの生産を増やしてしまったことも一因ですが、IEA(国際エネルギー機関)の需要予測が、コロナショックの中で、原油需要が大幅に減少する姿を提示しました。つまり、4月の世界の需要は前年比2900万バレル(約3割)も減少するというものでした。

この数字が物語るのは、少なくとも原油消費部門の需要が足元で前年より3割も減っているということで、一般に予想されている世界のGDPの落ち込みが、マイナス3%程度の小幅なものでは済まない可能性を示唆しています。最も悲観的な4-6月の米国のGDPでさえ、年率25%から30%のマイナス成長で、これは前年比にすれば5%前後のマイナスを意味します。

これに対して、IEAの原油需要が足元で前年比30%減となっているので、世界の景気悪化が、一般に予想されている以上に大幅で厳しいものか、あるいは少なくとも原油消費部門の需要の落ち込みがそれだけ大きい、ということを示唆しています。

例えば、コロナショックで最初に影響を受けた中国の1-3月のGDPは前年比6.8%のマイナスですが、前期比年率にすると35%前後の大幅マイナスになります。実際には関連指標の落ち方からすると、これよりさらに大きなマイナスであった可能性があります。これに遅れて移動規制、都市封鎖を行った欧米のGDPは1-3月よりも4-6月にさらに大きなマイナス成長になり、前年比は2桁近いマイナスになる恐れがあります。

大方の予想より厳しい結果が予想されますが、その象徴的な悪化部門がエネルギー関連ということになります。すでに、世界で渡航制限がなされ、国内でも外出自粛、移動制限が課せられています。そのあおりを真っ先に受けているのが空運関連で、米国のデルタ航空の1-3月決算は5.3億ドルの赤字となりました。欧州のエールフランス、BA、ルフトハンザ、日本のJAL、ANAが大幅減便を余儀なくされ、乗客は9割減などと言われます。

米国のボーイング社もこのあおりを受けて、収益悪化、株価の大幅下落を余儀なくされています。空運、航空機関係以外では鉄道、自動車などがやはり自粛の影響を強く受け、顧客数、生産が大きく落ち込んでいます。

つまり、先のリーマン危機時とは異なり、金融や財務の問題から企業の生産が落ち込んだのではなく、人が労働力として機能できなくなっているうえに、需要者として、旅行も出張も控えているために、交通手段を利用しなくなり、財務上の問題がない企業までコロナで需要を奪われました。

そしてこれはエネルギー関連にとどまらず、人の移動が制約されることでビジネスが成り立たなくなる分野が、圧倒的に大きいだけに、ほかの分野でもエネルギー部門並みの大幅需要減に見舞われるところが少なくありません。観光、飲食の他にも、ディズニーなどの娯楽施設、イベント、スポーツ、音楽、さらに取材も番組制作もできないメディアも経営危機に追い込まれます。

供給量の調節は容易でない

話を原油に戻すと、需給が急速に悪化し、価格が崩落しても、原油生産の性格上、減産が容易でありません。特にロシアではいったん油井を止めてしまうと、再開に多大なコストがかかります。このため、生産調整ができる国としては、サウジと米国くらいと見られます。さすがに、今回のようにいきなり3000万バレル近い需要の減少に見舞われると、対応できません。

その結果が、原油価格の大幅下落で、本来「石油カルテル」といわれながら、OPECプラスでも価格押上が困難であることを見せつけました。新型コロナウイルスの感染が一段落し、経済活動が通常レベルに近いところまで再開されるまでは、原油価格の低迷は続きそうです。

中国が怯える、産油国のデフォルト・リスク

原油価格が20ドル以下になると、それでも採算が取れる国はサウジアラビアとロシアくらいしかありません。特にサウジのコストは2ドルから3ドルと言われ、価格下落への耐久力は別格です。米国での採算ラインは30ドルから50ドル程度と言われ、最も効率的な油井でもこの価格では厳しい状況となります。

実際、シェール企業が発行するジャンクボンドの価格や、これを組み込んだETFの価格が急落しました。それでも、FRBが何でもありの支援を打ち出し、ジャンクボンドの買い入れを決めたので、何とか嵐は収まっています。しかし、政府からの支援が期待できない途上産油国、ベネズエラ、メキシコの債務が履行されるのか、懸念が広がっています。

特に中国はベネズエラやアフリカの産油国に多くの資金を貸し出していて、これらの回収が困難になる可能性があります。産油国のデフォルト・リスクに目を向ける必要があります。

一方、サウジもロシアも石油生産だけをとらえれば採算ラインをクリアしていますが、いずれも国家財政に石油輸出収入が深く組み込まれていて、財政を維持するための原油価格という点では80ドル前後が必要と言われます。今の水準では話にならず、価格低迷が続くと、両国も含めて、産油国の国家財政が急速に悪化することになります。

結局、「危機を起こさない」米国以外では、産油国はすべて苦しい状況になり、最後には米国の一人勝ちとなる面があります。トランプ政権の背後にいる勢力の中には、原油から原子力にシフトを狙う勢力があり、その狙い通りの動きになります。またロックフェラー陣営(特にエクソン)が世界の石油資源を独り占めするチャンスにもなります。

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image by:Evan El-Amin | Gil Corzo / Shutterstock.com

マンさんの経済あらかると』(2020年4月24日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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