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なぜ孫正義は一般投資家以上の被害を受けた?バフェットもハマった大物投資家の落とし穴=矢口新

神になったか孫正義?

「分散投資は自分が何をしているか分からない時にだけ必要」だと、分散投資を否定するのは、自分だけが未来を見通せると言っているに等しい。これでは、ウォーレン・バフェット氏は神のような存在だ。

一方、孫正義氏は決算発表の場でアナリストから傘下のビジョンファンドの業績不振を問いただされた時に、自分を神に例えて見せたという。「イエス・キリストもまた誤解された」と。
参照:Jesus Christ was also misunderstood, Masayoshi Son tells investors

私は2019年11月初めに、「ソフトバンクの蹉跌」題したコメントを書いた。以下にその全文を再掲載する。

■ソフトバンクの蹉跌

今の若い人たちは「蹉跌」という字が読め、意味が分かるだろうか?

今は漢和辞典で画数から調べなくても、ネットからコピペで簡単に検索できる。グーグル検索では、一番上に「蹉跌(サテツ)とは – コトバンク」とあり、デジタル大辞泉 – 蹉跌の用語解説 – [名](スル)《つまずく意から》物事がうまく進まず、しくじること。挫折。失敗。「計画に蹉跌をきたす」「事業が蹉跌する」とある。

ウェブページの右側には、この字を私などの世代が知ることになった小説名と、同名映画の紹介がある。『青春の蹉跌』は、石川達三の中編小説。またそれを原作とし神代辰巳が監督した日本映画である。ウィキペディア、初版発行:1968年、著者:石川達三、ジャンル:フィクション、音楽:井上堯之、上映時間:85分、監督:神代辰巳。出演者:萩原健一、桃井かおり、とある。

1968年では、私はまだ中学生だったので、この言葉の記憶はない。高校生になって、何か失敗すると、仲間内で「青春の蹉跌」という言葉が流行ったのだ。たぶん、それからその小説を読んだと思う。映画を観た記憶はないが、萩原健一と桃井かおりは、当時の中高生にとっては、最もカッコイイ大人たちだった。

ソフトバンクがこれまで蹉跌知らずに来たとは思えないが、今回の蹉跌は相当深刻なのではないだろうか? 孫正義社長は「決算はぼろぼろ。まさに台風、大嵐の状況だ」と説明した。

米シェアオフィス「ウィーワーク」の運営会社ウィーカンパニーへの投資では、ソフトバンク本体で5,000億円、同社のビジョンファンドで4,000億円規模の損失を計上した。また、ウィーがIPO計画を撤回し、企業価値が急落したことは、株主への信義則に違反するとして、少数株主の元社員が同社ニューマン前CEOや最大株主のソフトバンク孫正義社長らを相手取り訴えを起こした。同社の価値は年初の470億ドルから半年余りで80億ドル弱に減少している。

ウィーは長期リースで確保したオフィススペースを短期的に貸し出すビジネスモデルを展開してきたが、その収益性を巡り投資家の懸念が高まってきていた。同社への投資は、孫氏が創業者ニューマン氏の手腕を見込んで即断したとされるが、上場手続きのなかで資金繰りの問題や創業者の利益相反などが露呈、孫氏がニューマン氏のCEO退任を求めたと言われている。

ウィーについては損切りすることなく、全面支援に乗り出す。追加支援でソフトバンクの出資比率は80%に高まった。孫氏は11月6日の記者会見で、「今回は例外だ」述べたという。

また、ファンド投資先で上場した7社のうち5社の株価は初値を下回る。市場シェアや規模拡大を優先する経営が曲がり角を迎えた企業も多く、市場では「第2のウィー」への警戒も強いという。

2016年末設立のビジョンファンド10兆円の9月末までの投資先は88社で、投資額10兆円を使い切った。孫氏によれば、累計投資額は8.2兆円。これまでに1.2兆円の利益を計上、37社の投資先が合計1.8兆円の利益を生み出した一方で、評価減で損失を計上したのは22社で6,000億円に過ぎないという。

孫氏は、これまで経営者の人物を評価して投資するスタイルが強かったが、「今後はフリーキャッシュフローを重視して投資する」と述べた。反省はするが、「委縮しているわけではない」という。

今後の投資については、投資先の財務は独立採算、救済投資は行わないという2つの方針を改めて表明した。予定通りに2号ファンド10兆円を立ち上げる方針だというが、先日訪れたサウジアラビアでの説明会は、空席ばかりだったと報道されていた。

資金運用者としての長い経験、また、多くの投資家の成功例や失敗例を数多く見てきた私から見ると、いくつかの気になる「キーワード」がある。

1:「今回は例外だ」
2:「人物を評価して投資する」
3;「88社で投資額10兆円」

といったところだ。

(1)の今回だけは特別というのは、ナンピン買いや、損失あるいはリスクの先送りで、破綻した金融機関やファンドが「例外なく」言っていたことだ。

(2)は好調な時の人は輝いている。勝った時のスポーツ選手にはオーラがあるが、負けた時には別人のように見える。1,000億円超の投資先に選ばれるような未公開企業のCEOにはオーラがあるはずだ。だから3年足らずで88人もの投資先「人物」に出会えたのだ。

とはいえ、3年足らずで88人もの「人物」というのは、いささかハードルが低過ぎではないだろうか?ファンドマネージャーにありがちなのが、預かった資金を使い切らないと、器が小さいと思われることを恐れて、拙速な投資を行うことだ。孫氏のように「大物」の評価が定着していると、その期待に応えようとする焦りがあったのかも知れない。

(3)昔、ある有名なファンドマネージャーがいた。上場はしているが投資家からは見捨てられているような会社を訪問し、社長の「人物を評価」して、その場で株式の購入を即断、大量の買い入れを行ったという。

同氏の買う株は例外なく高騰したので、天才ファンドマネージャーと呼ばれ、同氏を採り上げるメディアもあった。

私はもともと債券や為替のディーラーだった。初めて株式を買った時、チャートだけを見て、寄り付き成り行きで、約100万円を買いオーダーした。2部のその株はストップ高となった。私は天才だろうか? とんでもない。私の平均コストはストップ高近辺だったので、結局は損失で終わったのだ。

かのファンドマネージャーは損益面では天才だった。自分で買い上げた銘柄を、自分で売りに行けば損すると知っていた。そこで「評価益だけで」納税者番付のトップになるなどして、メディアを通じて、個人投資家に同氏銘柄を宣伝して貰い、高値で個人投資家に売り抜けたのだ。

私は、「投資先で上場した7社のうち5社の株価は初値を下回る」ということを聞き、かのファンドマネージャーが当時の日本の中小型株市場を歪めたように、ビジョンファンドも10兆円でベンチャー市場を歪めてしまったのではないかと疑っている。1社あたり1,000億円を超える投資で、未公開新興企業の評価を過熱させたのだ。

企業経営に浮き沈みは付き物だが、資金運用の世界はもっと激しい。米株のように最高値を更新し続け、米債のように空前の高値圏にいる市場にいてさえ、長く生き残っている「大物」はリスクをうまく(しばしば顧客に)分散している。

ウィーへの出資比率80%というのは、企業経営としてなら兎も角、ファンドマネージャーとしてはやってはいけないことだ。2号ファンド10兆円を立ち上げる方針だというが、私はやめた方がいいと思う。このやり方では、まず、状況は悪化する。

5月18日、ソフトバンクグループは2020年3月期決算を発表した。本業のもうけを示す営業損益は1兆3,646億円の赤字で、純損益も9,615億円の赤字だった。

Next: 2020年3月期の役員の報酬等の総額は14億7,000万円。前期比1億5700万円減少――

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