政府は39県の緊急事態宣言を解除しましたが、東京など特別規制都府県は自粛がいつまで続くのかが死活問題です。財務省の「法人企業統計」によると、資本金1,000万円以上の企業については、現金預金など、手元流動性が平均で月商の1.88か月分しかありません。かつてはこれでも十分すぎる額でしたが、政府や自治体からの休業要請で、ほぼ強制的に業務が停止してしまうと、この月商に対する2か月弱の流動性では限度があります。もう時間切れで耐えられない企業が出てきます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年5月15日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
新型コロナウイルスの感染は世界無差別に
昨年中国で発生した新型コロナウイルスは、いまや世界の100か国以上の国で、400万人以上の感染者を出すに至りました。
このウイルス、先進国、途上国を問わず、世界にまん延しました。
世界に同時に同じ津波が押し寄せれば、堤防の弱いところから決壊します。先進国でも医療崩壊などに苦しむところが少なくありませんが、それ以上に医療体制が不備で衛生環境の悪い途上国では深刻です。
国内に目を向けても、正規雇用で守られている人はともかく、2,000万人を超える非正規雇用の職が脅かされ、収入機会を奪われた人が続出しています。
今こそ世界の「弱者」に目を向ける必要が高まっています。
新興国の格下げ相次ぐ
新型コロナウイルスの感染が拡大して以来、世界が同様に経済危機に陥っています。
今年1-3月のGDP(国内総生産)は、中国の前期比9.8%減、米国の同年率4.8%減、欧州でも軒並み大幅なマイナス成長となっています。その中で、世界のマネーは新興国から米ドルなど安全なところに避難し始めました(編注:日本の1-3月期のGDP速報値は、同年率3.4%減と発表されています)。
同じコロナショックでも、限界的な影響は先進国よりも新興国でより深刻となっています。
その一例として、S&Pやムーディーズ、フィッチなどの格付け機関によって、コロナ感染が本格化して以降、世界の26か国が格下げされましたが、先進国は英国、香港だけで、残りはすべて新興国となっています。
特に、原油価格の下落とダブルパンチとなった産油国が多く、その他ではアフリカ、中南米で格下げが多くなっています。このうち、クウェートは格下げされてもAAですが、クウェートの国策ファンド(SWF)の運用規模は、GDPの5倍ともいわれ、コロナ禍で大きな損失を出すと、国家的な問題に発展します。
また格付けがトリプルCとなったアンゴラは、輸出の95%、歳入の60%が石油に依存していて、原油価格が30ドル以下では財政危機に陥るリスクがあり、債務不履行の懸念が高まっています。すでにエクアドル、アルゼンチン、レバノンはデフォルト(D格)に下げられました。
格下げされなくても、サウジ、ロシアの産油国も原油価格の急落で国家財政は火の車で、しかも米国や欧州との関係も悪くなっているために、コロナ禍とも合わせて、今後何が起きるか分からない大きなリスクを背負っています。
米国ではトランプ政権の圧力もあり、FRBがジャンク債の買い入れも行い、企業の破綻を回避する姿勢を見せていますが、多くの新興国、とりわけ産油新興国では、こうしたセーフティネットがないだけに、コロナ危機、原油安が長期化するほど、債務危機のリスクが高まり、これらを組み入れた投信などの金融商品にも大きな相場下げ圧力となります。