自動車需要減は一過性ではなさそう
この自動車を襲った嵐が、1か月や2か月で済むなら、じっと嵐が過ぎ去るのを待てばよいのですが、どうやら一過性では済みそうにありません。
コロナ自体、この影響が収まるのに何年もかかりそうで、その間、雇用や所得の不安、消費パターンの変化など、自動車には継続的な重しが残りそうです。
さらに、自動車を巡る環境は、足元のコロナ禍だけではありません。
この春、一部の自動車メーカーで部品の供給が制約となって九州の工場を操業停止にしましたが、この時はコロナの影響で中国などからの部品が来ないためと言われました。
しかし、米国のトランプ大統領が世界のサプライチェーンを破壊し、米国回帰を進め、グローバル企業に米国への復帰を求めています。
この流れで行けば、仮にコロナの影響が一段落しても、サプライチェーンが使えない可能性があります。
中国への投資拡大が今になって足かせに
さらにそのトランプ大統領は、秋の大統領選挙も考えてと見られますが、中国経済とのデカップリングを企てています。そこへ中国が今般の全人代で「国家安全法制」を決め、香港に「治安維持法」のようなものを導入することになり、香港がまたきな臭くなりました。
そしてこれが米国の中国強硬論をさらに刺激してしまいました。
トランプ大統領は29日、香港の自治を阻害する関係者への制裁と、香港への優遇措置撤回を指示しましたが、中国・香港行政府の出方によっては、今後米中通商合意の見直し、新たな関税賦課など、米中の経済戦争は強まる懸念があり、日本もこれに巻き込まれます。
米軍が香港で軍事行動に出れば、さらにリスクは拡散します。日本の自動車メーカーは中国進出が遅れたこともあって、近年急速に中国投資を拡大しました。
その中国での生産が米国に圧迫され、中国投資が見合わなくなれば、投資の回収を考えねばなりませんが、中国から引き揚げるにも、現地の資産が回収されないまま、明け渡さねばならないリスクがあります。
産業構造変化の序章
冒頭で紹介した4月の生産統計は、日本経済が新型コロナの影響を受けて、大きな構造変化の序章を提示したとも言えます。
その象徴的な数字が、自動車の生産水準の凋落です。2015年を100とする指数で、4月の自動車生産は63.1となり、5月の生産計画通りなら、5月の水準は48まで低下します。5年前の半分になるわけで、全産業の中でも最大の低下となります。
4月の他の産業の生産水準を見ると、自動車の影響を受けるゴム製品工業が73.9、鉄鋼が75.6となっています。自動車の落ち込みが、関連産業の足も引っ張ります。
これに対し、2015年の水準を超えているのは、化学業界のうち医薬品、無機有機化学を除いたものが115.8となっているのみで、これに次ぐのが電子部品・デバイスの97.2、業務用機械の96.0です。
つまり、化学の一部を除くと、5年前の生産水準を超えている分野はなく、従って自動車が大きく落ち込んだ分を穴埋めしてくれる業界は、ここまでのところ無いことになります。
長年自動車業界に頼ってきて、米国の「GAFA」のような経済をリードする新業態が日本では育っていません。