ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析の有用度
では、金融の知識やファンダメンタルズ分析などは全く必要ないのでしょうか。
もちろん金融の知識もなく、ただ適当に売買をしているのでは単なる博打と一緒です。もっとも、トレードはある意味で胴元(証券会社やFX会社)に落ちる手数料が比較的薄いので、博打としては比較的割のいいものと考えることはできます。でも、博打をするだけなら「トレードの科学」はそもそも必要ないですよね。
そのような意味で、つまり相場で何が起きているか、自分がどのようなシナリオに賭けているかを理解できる程度には金融やファンダメンタルズの知識があった方がいいと思います。
ですが、そのような知識を増やしたり、きちっとした分析をしたりすることでトレードの成績が上がるわけではないことは知っておくべきです。
私は職業としてトレーダーやファンドマネジャーをやっていましたので、そうした立場から言えば、金融理論をすらすらとしゃべったり、ファンダメンタルズ分析をしっかりとやることはとても必要なことでした。それは相場に勝つためではありません。そうしないと、周囲の信頼を得られないためです。
プロが時間をかけて様々な情報を集め、様々な分析をしているのは、ほとんどの場合、本人が意識しているかどうかは別として、専門家らしく振舞うことで顧客の信頼を得たり、業界で一目置かれたり、あるいは所属する組織の中で自分の地位を安泰にするためのものなのです。
ですから、金融理論やファンダメンタルズ分析によってトレードの成績が左右されるということは基本的にはないと、とりあえずは考えていただいて結構だと思います(トレードの役に立つファンダメンタルズ分析というものが全くないとはいえません。それについては回を改めてお話ししたいと思いますので、今回はおよその結論としてこんなところで切り上げておきたいと思います)。
では、テクニカル分析(チャート分析のこと)はどうでしょうか。
ファンダメンタルズ分析との比較でいえば、テクニカル分析の有用性は少しだけ高いと思います。私自身、若いころにテクニカル分析のテキストを買って必死に勉強した覚えがあります。
テクニカル分析は、ここで買おうとかここで売ろうというような投資判断のきっかけを作ってくれますし、相場の流れを把握するうえでも重要な役割を果たしてくれます。
ですが、テクニカル分析が相場の先行きを予測するのに役に立つかといえば、やはりかなり疑問だと思います。
後付けで見れば、ある局面で、あるテクニカル分析の指し示す通りに相場が動くことはあります。でも、長い期間にわたって、有効であり続けるテクニカル分析は基本的に存在しません。複雑で、一見格好いい分析手法は特にそうです。
このテクニカル分析の話も、いずれまた詳しくお話ししたいと思いますが、とりあえずの結論としては、テクニカル分析で相場動向を予測するのは、相場に勝つ決定打にはならないということです。
ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析によって次の相場変動を予測することで利益を上げるというのが常識的な考え方だとすると、「トレードの科学」では、まずその常識を否定するところからスタートすることになります。
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