人がコントロールできるのは期待リターンだけ
先ほどの第1条の中で、「真の実力」という漠然とした言葉を使いました。投資の世界における真の実力とは、もっと正確に言うと何でしょうか。
それは、「期待リターン」という言葉で表されます。もっとも、この期待リターンという言葉自体も結構あいまいな使い方をされていて、よく見られるのは、一定の相場環境を適当に想定して、その想定される環境の下でどれだけ利益が上がるかを計算したものを期待リターンと称するようなケースです。
本当の期待リターンは、起こりうる全てのケースを考慮したうえでの損益の期待値のことです。ただし、起こりうるすべてのケースを考慮することは現実的には不可能なので、正確な期待リターンはだれも測定することができません。
それでも長期的には、偶然による作用がお互いに相殺されてその影響が薄くなっていくと考えられるので、次第に期待リターンが姿を現してくることになるはずです。つまり、短期的なトレードの成績はほぼ偶然によるものですが、長期的な成績は目に見えぬ期待リターンに左右される割合が高まっていくわけです。
そのため、期待リターン、すなわちトレードの真の実力は長期的にでないと現れてきません。しかし、それこそが我々がコントロールできる唯一の要素なのです。それに対して、偶然はコントロールが効かない要素です。
しかし、人は無意識のうちに偶然をコントロールしようとします。努力することで、あるいはおまじないやゲン担ぎで、あるいはポジティブに考えたり心を清く正しくしたりすることで、偶然が自分の味方をしてくれると誰もが無意識に感じるのです。
たしかに現実には運のいい人も悪い人もいます。でも、それは偶然なのですから自分でコントロールできるものではありません。
もちろん、いつか偶然が自分の味方をしてくれると信じて正しい方向に努力を続けることはとても価値のあることです。
しかし、やり方はともかくとして、ただ頑張れば運が味方についてくれるとか、念じれば思いがかなうと考えることは、トレードの世界では禁物です。そのような神頼みの姿勢は、自分の手足を縛り、ときに手ひどい損失を招きよせるものにしかなりません。
ですから、我々がすべきことは、長期的には偶然の影響が多かれ少なかれ相殺されるはずだと考えて、自分がコントロールできる唯一の要素である期待リターンをいかに引き上げていけるかに専念することになります。次回は、この「期待リターン」について、もう少し話をすすめていきたいと思います。
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『田渕直也のトレードの科学 Vol.001』より抜粋