FRBのW字型回復シナリオ
ところが、FRBは米国経済の先行きに強い懸念を抱いています。
実際、今般行われた米銀へのストレステストでは、米国景気がW字型回復を描いた場合のリスクをチェックしています。金融当局にしてみれば、米国経済の初期の回復には政策効果が大きかったものの、財政支援はいずれ終了し、その一方で感染者がまた増加している点を危惧せざるを得ません。
感染者の増加で経済活動がまた停止してしまえば、これまでの努力が水の泡となります。経済活動が止まってしまった場合に、いくら需要をつけても経済は動かないのを知っています。
実際、感染が過去最多を更新する州の多くで、経済再開を停止したり、一部撤回する動きが出始めました。
感染者がさらに増えるようなら、米国経済の先行きは一層不透明になる、とみています。
生産につながらない需要追加
政策効果の収支を見る場合、ここまでは経済崩壊を回避し、回復の動きを引っ張り出した点は成果と認められます。
しかし、その一方で、新型コロナの感染収束には成功していません。
このため、財政資金を大量投入しても、今後生産活動が停滞し、所得の増加が制限される可能性はあります。将来の雇用、所得期待が制約されると、給付された資金も消費に回らず、貯蓄に回る分が増えます。
実際、政府から個人に所得が給付されても、それがコロナの懸念によって、消費、生産、所得の前向きな循環につながらない懸念があります。
仕事ができずに家にいる人の生活を維持するために、政府資金で救済することは、生産・所得を生まない財政支出となるわけで、そうなれば当然、税収も上がりません。
これは財政赤字はもちろん、食料品などの輸入増で貿易赤字の拡大要因にもなります。
新型コロナの感染懸念があって人々が自由に動けず、働けないような特殊なケースでは、財政需要の在り方を考えざるを得ません。財政資金で需要を追加しても、ヒト・モノが動けない世界では、これが「死に金」になりかねません。
世界の公的債務が今年GDPの100%を超えれば、これまでのギリシャ、イタリア、日本の例のように、経済危機時に財政の機動性が低下し、政策が制限されます。