インフレの弊害〜「持つもの」と「持たざるもの」の分断
金融緩和と財政拡大でインフレが起きるかどうかはさておき、インフレの弊害にはどのようなものがあるのでしょうか。
長期的に見れば、インフレはやがて平準化されます。物価が上がっても、同時に賃金も上がればプラスマイナスゼロとなるからです。「昔の100円が今の1万円の価値」などとはよく言います。時間をかけてインフレになれば、困ることはほとんどないのです。
ところが、これが短期間に起きると様々な弊害を生みます。
賃金の上昇は一般的に時間がかかりますから、その間に物価だけが上昇してしまったら、明日のごはんも買えないという状況になってしまう可能性があります。これでは「長期的に見れば」なんて悠長なことは言っていられません。
もっと困るのが年金生活者です。年金もインフレほど上昇しないことがほとんどで、日本でも「マクロ経済スライド」と言って、物価ほど年金が上がらない計算式がすでに組み込まれています。額面は上がっても、買えるものは少なくなってしまうのです。ソ連崩壊後のロシアでは、高齢者は物が買えず、家庭菜園でしのいだと言います。
もう1つは格差の拡大です。インフレになれば、株や不動産の額面は大きく上昇する一方、資産の大半が預金の人や労働者、高齢者はその恩恵を受けられません。「持つもの」と「持たざるもの」が明確に分断されてしまうのです。
現時点でもアメリカではひと握りの富裕層と、多くの労働者の間の格差が問題になっています。ここでインフレが起きればその格差はさらに拡大し、これが「不況下のインフレ」なんてことになると社会不安を引き起こしかねないのです。
金融相場の終わりは「物価」で見極めろ!
このように、短期間で起きるインフレには間違いなく弊害があります。だからこそ、金融当局はそうならないように慎重に政策を決定しなければなりません。
FRBも「物価上昇率2%を達成するまでは金利を引き上げない」と言っていますが、逆に言えば2%に到達したら蛇口を締める用意があるということです。
FRBが蛇口を締めるなら、これまでのような「無限の株価上昇」というストーリーは描きにくくなり、金融市場の雰囲気も変わるでしょう。
すなわち、これから私たちが見るべきは「物価上昇率」ということになるのです。これが急上昇するようなら、FRBが態度を変えるには十分な理由になります。
もっとも、すでに相当量のマネーが世界に出回っていますから、蛇口を締めても時すでに遅しで、インフレが加速する可能性もあります。そうなると、インフレにあわせて株価も上昇するということになるでしょう。
すなわち、金融政策の転換によって上昇を続けてきた株価が下がる可能性は十分にありながら、抑制がきかずにインフレが加速し、それにあわせて株価も上昇することも考えられます。