今回は大手住宅メーカーの積水ハウス<1928>に焦点を当て、その事業内容、成長戦略、そして投資家が抱える疑問について深掘りしていきます。
積水ハウスは昨年2024年4月に米国の大手住宅ビルダーMDC社を買収し、米国の住宅市場での成長に向けた大きな一歩を踏み出しました。しかし、買収完了後、株価は一時的に上昇したものの、直近では右肩上がりの状況が続いていません。この状況を受け、SNSなどでは「安定性はあるが、成長性はどうか?」という疑問を抱く投資家の方も少なくないようです。
果たして積水ハウスは長期投資に適した企業なのでしょうか。その判断のためには、国内外の事業を深く理解することが不可欠です。積水ハウスの事業の全貌を一つ一つ丁寧に解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
積水ハウスの事業は「4本建て」売上の7割は国内事業
積水ハウスは、大きく分けて以下の4つの事業を展開しています。
- 受け型ビジネス
- ストック型ビジネス
- 開発型ビジネス
- 国際ビジネス(海外事業)

出典:積水ハウス
売上ベースで見ると、国際事業は約31%を占める一方で、国内での売上が約7割を占めているのが積水ハウスの現状です。それぞれの事業内容を詳しく見ていきましょう。
<1. 受け型ビジネス(売上約33%)>
顧客が所有する土地に、付加価値の高い住宅や事業用建物を建築・提供する事業です。戸建住宅、賃貸住宅、事業用建物の建築に加え、そのための建築土木事業も自社で行っています。
<2. ストック型ビジネス(売上約20%)>
賃貸住宅の質の高い管理や住宅のリフォームを通じて、資産価値の維持・向上を図る事業です。建物が老朽化すればリフォームが重要になりますし、戸建住宅や賃貸住宅を建てた後も、入居者募集の支援など、顧客に寄り添ったサービスを提供しています。この事業は、受け型ビジネスで獲得した顧客に対し、継続的にサービスを提供する側面も持ち合わせています。
<3. 開発型ビジネス(売上約14%)>
魅力的なエリアで住宅用地や高品質なマンション、オフィスビルなどを開発し、良質な街づくりに貢献する事業です。マンションやビルを建設・販売するほか、不動産仲介事業も行い、さらに大規模な都市再開発にも携わっています。
<4. 国際ビジネス(海外事業)(売上約31%)>
米国を中心とした海外での住宅事業を展開しています。詳細については後述しますが、積水ハウスの今後の成長戦略において重要な位置を占める事業です。
創業から盤石な国内事業を築き上げた歴史と強み
私が調査を通して感じたのは、積水ハウスの国内事業は非常に盤石であるということです。その背景には、創業から現在に至るまでの成長ストーリーがあります。
積水ハウスは1960年、積水化学工業のハウス事業部から独立して誕生しました。創業期は高度経済成長期であり、マイホーム需要が旺盛であったため、戸建住宅事業が急速に成長しました。
その後、人口増加に伴う都市部での賃貸需要の高まりを受け、賃貸住宅や事業用建物へと事業を拡大。特に、地主の相続税対策を背景に、賃貸住宅事業は大きく拡大しました。
1980年代に入ると、これらの建物が増えるにつれ、入居者募集や老朽化した設備の修繕、リフォームの必要性が高まりました。これを機に、積水ハウスは賃貸住宅管理事業やリフォーム事業に乗り出し、現在のストック型ビジネスの基盤を築きました。この頃のバブル期には商業施設の建築需要も高く、建築土木事業も自社で行うようになります。
このようにして、積水ハウスは戸建、賃貸、管理、建築土木といった住宅から非住宅までをワンストップで手掛ける体制を時代と共に築き上げてきました。「ちょっといい建物」というブランドイメージを確立し、受け型ビジネスで獲得した顧客とは長きにわたる付き合いを続ける、息の長いビジネスモデルを業界内で構築してきたのです。
<国内市場の成熟と開発型ビジネスへのシフト>
2000年代以降、国内の新築需要、特に戸建の新築需要が頭打ちになる状況が顕在化しました。これを受け、積水ハウスは開発型ビジネスに乗り出します。戸建や賃貸、事業用建物よりも規模の大きなマンション、ビル、都市再開発といった事業を手掛け、これに伴い不動産仲介事業にも参入しました。
受け型ビジネスとストック型ビジネスで得た安定したキャッシュフローを基盤に、より事業規模の大きな開発型ビジネスへ投資。一つ一つの案件の単価が高く、利益率も高いため、売上・利益ともに順調に伸ばせるようになりました。これにより、積水ハウスは「建てる」「管理する」から「開発する」まで、事業領域を拡大することに成功したのです。
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