それは、容易に越えられない「見えない壁」となっていく
さらに地域で見た場合、ある地域に貧困層が多くなっていくと、地価が下がってますます貧困層が流れ込んでいく。そうすると、不動産価格の下落や環境の悪化を嫌って、富裕層が少しずつ、しかし確実に抜けていく。そうすると、ますます貧困層がその地区を埋め尽くすようになっていく。
一方で、富裕層が集まるところは地価が上がって貧困層が住めなくなる。これで人々が経済レイヤーによって「完全分離」される。
職業でも同様の「分離」が起こる。富裕層の子弟が卒業する大学卒の勤める職種と、貧困層の勤める職種も違っていく。入れる企業も違い、同じ企業でもエリートクラスと労働者クラスに分かれて、このふたつは交差しなくなる。
この「分離」は、容易に越えられない「見えない壁」となっていく。
今のままであるならば、日本も遅かれ早かれそのような「見えない壁」で区分けされる社会になる。これについては、多くの社会学者、経済学者、政治家たちが警鐘を鳴らし、危険を訴えている。
弱肉強食の資本主義が作り出した「壁」
誰のせいでこんなことになったのか。全世界がこのようになっているのだとすれば、誰のせいでもなく、現在の社会構造が生み出しているというのが分かるはずだ。
弱肉強食の資本主義が、このような社会現象をどんどん増長させて止まらないのである。強いて言えば、グローバル化を無批判に取り入れた政治家や大企業が悪いということになる。
しかし、日本はもうとっくの前にグローバル化を完全に受け入れた。これからも、どんどん受け入れていくことになる。それがさらなる経済格差と「分離」を生み出すことになるのは、目に見えている。
もはや、格差が日本国民を「分離」してしまうのは避けられない事態だ。私たちはどちらかに分けられてしまうのだ。そして、同じ日本人でも、まったく交わらない文化断絶ができあがる。
同じ民族なのに、別々に違う世界で「分離」して生きることになる。
格差は子ども世代に引き継がれる
問題は貧困層に落ちた人は、もはやその子供もまた貧困層になってしまうことだ。個人の努力云々の話ではない。子供たちはスタート時点から極端な差を付けられて貧困から抜け出せない。
日本がそんな社会になることは、高齢層よりも若年層の方が切実に感じ取れるかもしれない。
日本は若者の自殺が多い国だが、それは就職活動を行っている段階から、多くの企業に断られ続け、自分たちが社会から必要とされていないことを悟ってしまうこともひとつの要因として挙げられている。
就職できても、生活していくことができないほどの薄給だったり、非正規雇用や契約社員のような、不安定な身分だったりすることも多い。正社員と「分離」されているのである。そんな中で必死で働いても、身体を壊して使い捨てされる。
彼らの多くは、自分たちが貧困に生きるしかない現実を突きつけられている。当然、無理して結婚して子供を作っても、子供が貧困で暮らすことになることくらいは容易に想像がつく。
だから、結婚して子供を作るということすらも逡巡する社会と化している。日本は超少子高齢化となっており、減り続ける子供と増え続ける高齢者のアンバランスが社会のゆがみとして現れるようになっている。
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