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日経平均2万8000円割れは「FOMC後の空騒ぎ」だ。短期波乱を経て緩やかな株価上昇基調へ回帰=馬渕治好

盛りの花~世界経済・市場の注目点

<FOMCの結果を受けた市場は騒ぎ過ぎだ、と判断する>

1)FOMCを受けての市場波乱は、よくある「振れ」の範疇だと考える

先週の主要な株価指数の下落については、基調としての緩やかな株価上昇傾向における、短期的な振れの範疇だと考えています。

それでも、先週のニューヨークダウ工業株指数の下落を見て、肝を冷やしている読者の方も多いと思います。先週一週間のダウ工業株の下落幅は1,189ドルで、週間ベースでは今年最大だったと報じられています。とは言っても、同指数の水準自体が過去と比べて高くなっているので、下落幅でなく下落率で考えるべきではありますが。

そうしたニューヨークダウ工業株下落の要因として、6/15(火)~6/16(水)に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)が、株式の売りを加速させたということ自体に、異論はありません。ただ、その点を議論する上で、今年に入ってからの米株式市場の動きとその材料とされたもの(本当にそれが株価を動かした真の要因であったかは別として)を、ちょっと振り返ってみたいと思います(それにより、先週の米株価の動きが騒ぎ過ぎであったことを、浮き彫りにします)。

2)今年初から最近までは、景気過熱懸念と、それによる長期金利上昇、次いでインフレ加速が、市場の関心事に

今年3月辺りまでの展開で、市場において最大の懸念材料とされたのは、景気回復の強さが長期金利を大きく押し上げる、ということでした。
実際の長期金利の推移としては、今年初まで1.0%を下回っていた米10年国債利回りは、その後上昇色を鮮明にし、3月末には一時1.78%に達しました。こうした金利上昇は、未来の企業収益を現在価値に換算する際の割引率を高めると教科書的には考えられることから、将来の企業収益期待に支えられている成長株の売りの「口実」となりました。このため、ナスダック総合指数は2月半ばでいったんピークをつける展開を示しました。

その後は、パウエル連銀議長が、粘り強く金融緩和を継続すると語り続けたことなどから、長期金利は落ち着いて推移しました。そうしてやや沈静化した長期金利上昇懸念に代わって騒がれ始めたのは、インフレ懸念でした。
それは、米景気の強さが様々な製品の需給をひっ迫させ、物価を押し上げて、経済に混乱をもたらしかねないとの不安という形でした。特に4月分の消費者物価指数が5/12(水)に発表された際は、その前年比が4.2%上昇と、3月分の2.6%から大きく伸びを高めたため、市場に不安が広がりました。

3)これまでの、景気過熱見通しによる長期金利上昇懸念が、FOMC直後は引き継がれた

述べてきたように、年初来、米国経済の強さを背景とした、長期金利上昇懸念やインフレ懸念が、市場で取りざたされてきたわけです。それがFOMCの2日目(6/16、水)に一段と盛り上がってしまった、と言えましょう。

FOMCでは3か月に1度、FOMCの参加者たちによる景気や物価、金利水準の予想値が公表されます。それによれば、前回3月のFOMCの時点では、全参加者18人のうち、2023年に利上げを見込む向きが7人でしたが、今回は13人に増え、過半となりました。これが、連銀が利上げを急いでいるとの解釈となり、市場に波乱を引き起こしたわけです。

こうした金利予想値の上方修正を受けて、FOMCの決定直前には10年国債利回りは1.48~1.49%であったものが、その日のFOMC後には1.58~1.59%に跳ね上がりました。このため、ニューヨークダウやナスダック総合指数は前日比で下落しました。同時に外国為替市場では、日米金利差拡大思惑から、米ドルは対円で一時110.70円近辺に上昇しました。

4)と思ったら、今度はいきなり米景気悪化懸念?

ところが米国市場の様相は、その翌日の6/17(木)から一気に変貌しました。「いや、そんなことはない、株価指数が下がり続けているだけで、何も変わっていない」と思う方もおられるでしょう。
しかし米株式市場では、景気敏感株に売りが嵩み続け、ニューヨークダウ工業株指数は、連日下落を続けることになりました。その一方で、ハイテク株には相対的な業績成長期待から買いも入り、ナスダック総合指数は6/17(木)は、前日比で一旦の上昇をみせました。

こうした景気敏感株への売りと歩調を合わせるように、米10年国債利回りは、週末金曜日には一転して1.44%近辺にまで低下しました。これが米ドルの対円相場を抑制し、1ドル110.25円辺りに反落して週を終えました。

さらに一段と目を引くのは、国際商品市況の下落です。原油価格は小幅軟化したものの大きくは動いていませんが、銅先物価格(COMEX)は、終値ベースで5/11(火)の高値である1ポンド4.76ドルから、先週月曜日(6/14)には4.53ドルへと、価格は軟化はしたものの、限定的な下げにとどまっていました。ところがその後は一気に下落を加速し、先週末(6/18)は4.12ドルまで下振れしています。その他の原材料などでも、下げが大きいものが目立ちます。

特に木材価格は、先物で千ボードフィート当たり、今年2~3月は800~1000ドルを中心とした推移であったものが、5月10日には一時1700ドルを超えて、「ウッドショック」と呼ばれました。
ちなみに、1ボードフィートは、厚さが1インチ(1インチは2.54センチメートル)、縦横が各1フィート(1フィートは12インチ、30.48センチメートル)の木材の板を表します。
こうした木材価格の高騰が住宅価格を押し上げ、住宅への需要を減退させる、との懸念が広がっていましたが、その後木材価格は下落に転じ、先週末は900.80ドルで引けています。

述べてきたような、先週木曜日から金曜日に顕著になった、景気敏感株売り、長期金利低下、それと少し前から進んではいたが国際商品市況の下落をまとめて眺めると、市場はあたかも「連銀の利上げで米国の経済は悪化するので、株式は売られ長期金利は低下し、デフレになる」と叫び始めたかのように見えます。

しかし、そうした市場の反応は、的確なものなのでしょうか。

FOMCの2日目(6/16、水)までは、「アメリカの景気は過熱している、だから連銀も利上げを早めるのだ、長期金利の上昇とインフレが心配だ、株価は全般に売り込まれるだろう」と騒いでいた市場が、その翌日から「連銀が利上げをしたら、アメリカの景気は悪化してしまう、長期金利は低下するし、国際商品市況を含め物価は低下する、景気敏感株は売りだ」と騒いでいるわけです。たったの一日で、アメリカの経済は好況から不況に転落したのでしょうか。そんなことはありえません。

とすれば、こうした様々な市場の動きをどう解釈すればよいのでしょうか。

それは、市場心理の不安定さから、様々な材料や思惑に投資家が飛びつき、ドタバタと方向感もなく売買しているだけだ、ということでしょう。つまり、足元の市場の動揺は、ファンダメンタルズ(市場動向の基礎となる、経済や企業収益、経済政策などの動向)の変化によるものでは、まったくありません。ただ、投資家が上へ下へと、オロオロしているだけです。

5)そもそもFOMCの金利見通し修正に対して騒ぎすぎ

こうした先週の市場のドタバタを横に置いても、市場の材料となった、FOMCメンバーたちの金利見通しの上方修正そのものも、もちろん今年中に政策金利が上がるという話ではありません。さらには来年2022年のことでもありません。過半のメンバーが金利上昇を見込んでいる(金利を上げるという政策の方針を打ち出しているわけではなく、単に「政策金利を上げることになっているだろう」と予想しているだけです)のは2023年と、かなり先のことです。

加えて、FOMC前から、民間のエコノミスト、マーケットアナリストの間では、もっと早い利上げを見込んでいた向きが多かったようです。

つまり、テーパリング(量的緩和の縮小)を将来始めるとの声明が今年末までに行なわれ、テーパリングの実施はぎりぎり今年末近くか来年前半、利上げは来年後半辺り、との観測が既に主流でした。

そのような市場における金融政策のスケジュール観に比べ、はるかに早い時期に利上げする可能性がある、との見解を連銀が披露したならともかく、市場が想定していた利上げスケジュールより利上げ開始が遅い、ということですから、ますます市場が大げさに騒ぎすぎていると考えられます。

こうした(1)~(5)の考察からは、米国を中心とした主要国の株価動向が、FOMCを受けて下向きに変わったわけではなく、短期的な株価下振れに過ぎない、と解釈しているわけです。

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理解の種~世界経済・市場の用語などの解説:物色は糾える縄のごとし

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※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2021年6月20日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した項目もすぐ読めます。

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image by:Freedomz / Shutterstock.com
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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2021年6月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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