購買力平価(PPP)はインフレで下落
ところが、米国のCPIは昨年4月に前年比4%を超え、インフレ目標2%の2倍以上の高い上昇となりました。
それでもFRBは「インフレは夏までに一巡する」と言い、あくまで一時的と言い張りました。ところが、夏場に個人消費がインフレによって落ち込み、これが7-9月のGDP低成長の主因となり、バイデン政権の支持率低下をもたらしました。
そして悪いことに秋以降、インフレはさらに加速するようになり、今年1月のCPIは前年比7.5%の上昇と、40年ぶりの高い上昇となりました。さすがにFRBは「一時的」との認識を取り下げました。
昨年1月にドルを買った人は、それがドル・キャッシュで持っていればドルはこの1年で7.5%も目減りしたことになります。1.3%クーポンの10年国債でも6%以上目減りしています。
「強いドル」を信じてドルを買った人も、現実のインフレでドルの目減りを体験したことになります。
実際、為替理論の中には「購買力平価(PPP)」という考え方があり、インフレ率の高い国の通貨は、インフレのない国の通貨に対して下落し、その度合いはインフレ率の格差分と考えられています。例えばインフレがゼロの日本の円に対して、7%のインフレの米国ドルは、1年で円に対して7%下落する計算です。
通常、インフレ率の高い国では金利も高くなりますが、購買力平価はこの金利では調整されないまま、長期的にはインフレ格差で決まることを示唆しています。ドル円も長期的に日米のインフレ格差に沿った形で円高傾向を示していて、CPIの格差でみれば1ドル100円強、PPI格差なら1ドル90円弱が適正相場としています。
金利は短期的な変動要因となりますが、長期的にはこの購買力平価で決まると見られています。
従って、金利は高くても高インフレ国のアルゼンチン(ペソ)、トルコ(リラ)、ロシア(ルーブル)などの通貨は下落傾向にあります。
米ドルも高いインフレが続くと、インフレ通貨として下落を余儀なくされます。
米ドルの行方はFRBの対応いかん
現在の米ドルは、インフレ高進が続くなかで潜在的な下落リスクを抱えるうえ、金利でこのインフレをカバーできない状況にあります。
それでもFRBの積極的な引き締め策によってインフレを抑制するとの期待があり、売り買いのバランスを維持し、下落を回避しています。
従って、今後のドルを占ううえでは、FRBの対応いかんということになります。
ここまで、FRBの動きはインフレ抑制という面では後手に回っています。すでにインフレが40年ぶりという大幅な上昇となる状況を許してしまいました。これに対して、近々利上げに出ることを示唆しつつも、現実の金利は政策金利はもちろん、長期金利でも実質金利は大幅なマイナスとなっています。