ロシアを追い詰めるほどリスクも増幅
では、ロシアは攻め込みながらむざむざと負けるのか?あるいは、プーチン大統領が当初から言っているように、追い詰められれば「核兵器」の使用も考えられるのか?
核兵器は1発でも破壊的だが、ロシアは世界一多くの核弾頭を保有しており、西側諸国全部を合わせても、世界の半分に満たないのだ。
つまり、ロシアを経済力や通常兵力などといった弱みをついて追い詰めることは、ロシアの核兵器という強みを引き出すことにもなりかねないのだ。
幕引きを地球一丸となって考えるべき時期だが…
そこで、核戦争を恐れる世界は、ロシア・ウクライナ戦争の出口戦略を提供する必要が出てきている。バイデン大統領が失言したように、プーチン政権転覆までロシアを叩くというのでは、核戦争を覚悟せねばならず、話にならない。
キッシンジャー元米国務長官は、スイス、ダボスで開かれている世界経済フォーラムにオンラインで参加し、ロシアとウクライナの国境を「2月のロシアの侵攻前の状況」とすることが望ましいと提言した。これはロシアのクリミア半島領有を認めるものだ。西側諸国にも戦争が長期化すれば「ロシアに対する新たな戦争になる」とロシアへの配慮を呼びかけた。
これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は、譲歩は考えられないと強く反論。「領土分割論を唱える者は、その地域に住んでいるウクライナ人を考えていない人だ」と訴えた。「キッシンジャー氏のカレンダーは2022年でなく1938年になっている」とも指摘した。
英仏が台頭するナチス・ドイツに融和姿勢を示し、第2次世界大戦の惨禍を招いたとされる歴史の経緯を引き合いにした非難だ。
とはいえ、クリミア半島をウクライナが領有していたのは、1954年に当時のソ連フルシチョフ書記長がロシアから譲渡してから、2014年にウクライナのクーデターで反ロシア政権が成立しためにロシアが取り戻すまでの60年間だけだ。現在も「その地域に住んでいる」住民の7割はロシア人だとされている。残りがコサック人とウクライナ人だ。
クリミア半島のセヴァストポリには、1783年からロシア黒海艦隊の海軍基地がある。それをロシアが「敵国」に明け渡すことは、敗戦以外に考えられないと言える。
少なくとも、クリミア半島に関してはゼレンスキー大統領の主張にこそ無理があるのだ。これでは、停戦すら望めない。