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孫正義氏が大損した4つの理由。ソフトバンク・ビジョンファンドは最初から極めて危険だった=矢口新

ソフトバンク・ビジョンファンドが危険な4つの理由

ソフトバンクは、8月中旬以降のアリババ株を利用した先渡し売買契約は、現物決済のみにすると発表した。これに伴い、アリババ株の保有比率が20%以下(先渡し売買契約で差し出した株式を充てると14.6%)に低下して持分法適用会社から外れるため、7-9月期決算では関連利益を計上することになり、税引き前利益に対する影響額は約4兆6,000億円に達する見込みだという。

これで分かるのは、ソフトバンクの業績はビジョンファンドとアリババに大きく依存しているということだ。これにアームを加えれば、同社は事業会社というより、投資会社だと言っていい。ちなみに、同期間のソフトバンク事業の利益は約2,200億円だった。

このことは、ソフトバンクの業績は、ベンチャー市場、中国市場、半導体市場の動向を強く受けることを示唆している。また、大きな外貨建て債務があるので、円安にも弱い。現状は残念ながら、これらのどこも良くないのではないか?

一方で、ソフトバンクグループは同日、発行済み株式の6.3%にあたる1億株、4,000億円を上限とする自社株取得枠を設定した。取得期間は8月9日から2023年8月8日までの1年間。同社は昨年11月、最大1兆円の自社株取得を決議し、7月末までに7,048億円を取得しているが、この取得期間が終了した後も、自社株取得を継続できるように、新たに枠を設定した。取得した自社株は消却する予定。

これは自己資本比率の低下を意味し、これまで以上にレバレッジ経営を進めることになる。一方、利益が出れば、小さな自己資本で(大きなレバレッジをかけ)利益を出すことになるので、ROEの上昇が期待できるようになる。

私は「投資の学校」向けの「バブルのケーススタディ」で、ソフトバンク・ビジョンファンドを、2020年2月と、2022年7月の2回取り上げた。つまり、同ファンドがそれなりのパフォーマンスを上げている時から、バブル的だと指摘していた。

その意味では、孫社長の述べる「市場環境や戦争、コロナの影響はあくまで言い訳」は、言い訳にもならない、もともと極めて危険なファンドだったと言える。

その理由を箇条書きにすれば、以下のようなものとなる。

1. 2016年に1,500億ドル以下だった市場に、2017年に1,000億ドルを88社に投資
2. 巨額の資金は焦りの現れ?
3. 無理を強いられるスキーム
4. バブルは必ず崩壊する

それぞれ解説したい。

<1. 2016年に1,500億ドル以下だった市場に、2017年に1,000億ドルを88社に投資>

これは買えば上がるという発想で、パワースポーツ選手で言えば、ステロイドを投与すれば勝てるようになるというものだ。

以前、長期間にわたって自転車競技の世界チャンピオンだった人の薬物使用が発覚し、過去の栄光がすべて取り消されたことがある。

ステロイド氏自身は自業自得だが、万年2位や3位だった人はどうなる?賞金が得られなかっただけでなく、自己の才能に限界を感じ、競技を止めた人がいるかもしれない。つまり、ステロイド氏は、その競技全体の未来を損ねたことになる。

同じことはベンチャーにも言える。

数億円、数十億円の資金があればと奮闘している、横並びで大差のないベンチャーの1つに、1兆円近い資金を提供することはフェアだろうか?

圧倒的な支援を受けたその1社の周りで、多くのベンチャーが潰されたと言っていい。

また、WeWork(ウィーワーク)に見られたように、器以上に巨額の資金を手にしたベンチャー経営者が、自分を見失ったようなケースもあるだろう。

つまり、ステロイド・ファンドは、ベンチャー市場の未来を損ねたことになる。

Next: ベンチャー1社に1兆円投資して何を得たいのか?歪められた競争原理

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