黒田総裁の「最後の賭け」が財政インフレを起こす
グローバルなインフレで先進諸国の国民が苦境に追い込まれている。これは、コロナ禍を救うための緊急で大規模だった財政出動と金融政策が、大きな原因となったのであろう。
ウクライナ侵攻だけではない。原油高だけではない。経済政策の結果であると思う。単なる需給関係から来るインフレではなく、財務当局への信認低下が招いた財政インフレだという可能性が強い。
計量経済学的に実証されているわけではないが、ウクライナ侵攻と原油高を原因とする面よりも、過去の政策が原因だった可能性が大きいと筆者には思える。もしそれが本当で、財政政策主導でインフレが起きているとするならば、日銀が利上げに転じたとしても、それは景気が悪くなるだけであって、健全財政化に転ずるまでインフレは沈静化しない。
今のところ、日本のインフレは3%程度だから、欧米のような大きなインフレの波からは免れている。それはコロナ禍からの経済再開の遅れと需要回復の遅れが原因であると思うが、大きな問題はインフレに慣れていない世代が大多数となったことと、インフレは高度成長期のものであり、ある程度のインフレが経済を活性化させてきたのだという体験が全くないことにもよると思う。
「2%インフレ」は2013年春に黒田総裁が就任してからも一貫した経済政策の目標であった。それは安定的な2%インフレの目標達成が見通せないからとして「異次元緩和」を続けている。その結果として、大幅な円安が進んだ。異次元緩和の9年以上の継続にもかかわらず、「安定的な2%インフレ」の目標が達成不可能である。そこへ持ってきて欧米に激しいインフレが訪れ、日米の金利差と貿易黒字のために超円安が訪れた。
結果として、高めのインフレが継続すれば、インフレに慣れていない日本国民の半数以上の人々にインフレマインドが醸成され、広範囲な価格上昇につながる可能性はある。日本のゼロインフレという社会規範化したものが化石のようになって固まってしまい、「インフレは悪だ」という社会規範が永久凍土のように固まってしまっている。
ところで、ゼロ金利なしでは存続が難しい、収益性が低い企業が増えてしまったことに対する一つの処理の方法でもある。また、インフレ沈静を求める消費者(金利を高くすればインフレが収まると思っている)と金融緩和の期待を求める事業者との間で、日銀は板ばさみとなって動きがとれないように見えるが、黒田日銀は意図的に金融緩和を継続している。
とにかく「安定的なインフレ」を実現させて、日本経済を活性化させようというのが先決である。その結果、賃金の低迷や企業収益の悪化をサポートするために、政府は追加財政で対応し、日銀は金融緩和を続けるという枠組みがこれからも継続されるだろう。その金融と財政の協働は、インフレを確実に加速させて、円安を助長する結果となる。
日銀は金融システムの安定による経済と物価の安定、すなわち貨幣価値の安定を明文化された使命としているために、苦渋の選択として長期金利の上昇を抑え込もうとするだろう。その代償として、大幅な円安がもたらされる。
日銀が財政出動と協働するのは、究極的には国民の政権選択の結果と言えないことはない。財政・金融の結果として起きることは、究極的には政治の選択であったということになる──
<山崎和邦の投機の流儀vol.544 11/6号>
■ 第1部:当面の市況
(1)市況コメント
(2)全体像の中に個別の動きは旺盛
(3)10月いっぱいの日経平均の動き
(4)好決算銘柄に買い、東京市場のストックマインドは生きている。
(5)日本株の相対的強さは国内勢にある。
(6)著名な為替ストラテジスト7人への緊急為替アンケート
(7)FRBが0.75%ずつ、4連続の利上げ
(8)11月8日、米大統領中間選挙
■ 第2部:中長期の見方
(1)株を中長期持続計画で買う局面は、如何に判断するのか?
(2)財政規律の批判ばかりしていてもコトは治まらないし、始まらない。
(3)分配と成長の好循環」─財政規律の異常を解決する法はこれしかない。
(8)日本の「失われた30年」は、次に中国へ移る。
(9)米中間選挙ラリー中国経済の衰退─中華人民共和国そのものの衰退
(10)米国社会の保守対リベラルの溝
(11)財務官の先輩、後輩に酷評される黒田日銀総裁の破綻
近年稀に見る
■ 第3部;読者との交信蘭
(1)T様との交信(10月30日受信)
(2)論客H様との交信(11月1日着信)
[ 来週号に回すもの ]
〇我が恩師も、今もし在ればプーチンに暗殺されたかもしれない。
〇景気循環消滅論が登場することがあるから、幻惑されないようにしよう。
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『山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2022年11月6日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。