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2023年アメリカの景気後退は本当に来るのか?見えてきた不況の深刻度とリーマン・ショック再来の可能性=高島康司

リーマン・ショックの再来はあるのか?

このような状況で、多くのエコノミストがもっとも注目しているのが、アメリカの住宅産業の状況だ。

それというのも、2008年の「リーマン・ショック」のきっかけとなった「サブプライムローン危機」のようなことがこれから起こるのかどうか懸念されているからだ。「リーマン・ショック」は世界的な金融危機であった。もしこれから「サブプライムローン危機」と似た状況になれば、新たな金融危機に備えなければならない。

周知のように2007年から始まった「サブプライムローン危機」は低所得者用の住宅ローン、サブプライムローンの破綻から始まった。当時は金融のグローバル化の波に乗り、さまざまな種類の債権を束にして証券化した「CDO」という高利回りの金融商品が機関投資家に飛ぶように売れていた。「CDO」とは債権担保証券のことである。その高利回りの源泉は、証券の元になっている債権の返済金であった。もし「CDO」の組成の元になっている特定の種類の債権が破綻し、返済が全面的に不可能になれば、金融商品としての「CDO」も破綻する。

この恐れていた事態が発生したのが、「サブプライムローン危機」であった。サブプライムローンは普通では住宅の購入が難しい低所得者用の住宅ローンである。ローンを組んだ当初は金利は低く押さえられているが、一定期間が経過すると金利は跳ね上がる仕組みになっていた。この当時アメリカの住宅価格は右肩上がりの状態が10年以上続いていたので、サブプライムローンの保有者は価格の上昇した自宅を担保に、安い金利のローンに組み替えることが勧められていた。

一方、「CDO」はもっとも有力な金融商品となり、組成すればするほど売上は伸び利益になった。このため住宅ローン会社は「CDO」の組成に必要となるサブプライムローンの需要が高まったため、支払い能力のないような層にもサブプライムローンを提供した。サブプライムローンはすぐに証券化されて売り払われ、「CDO」に組成されるため、住宅ローン会社はすぐに利益を回収できる。サブプライムローンが実際に返済されるかどうかは問題ではなかった。

だがそうした状況で、住宅バブルの過熱を懸念した「FRB」は金利を大幅に引き上げた。その結果、住宅ローン金利も高騰し、それに伴い住宅需要の減退から住宅価格も10年ぶりに下落した。これは住宅価格の上昇を当てにして金利の安いローンへの組み替えを図ろうとしていた低所得のサブプライムローンの保有者を直撃した。安いローンへの組み替えは拒否された。このためこのローンを持つ多くの低所得者は、上昇した金利を支払えず、破綻した。

サブプライムローンの破綻は、これを債権の一部として含む「CDO」の破綻を引き起こした。すでにこの時点では膨大な額の「CDO」が市場に出回り、多くの金融機関がこれを保有していたので、大量の不良債権を抱えることになった。不良債権の存在は銀行を相互に疑心暗鬼にさせ、銀行間の融資がストップする事態になった。

この影響で資金繰りに困り、破綻する銀行が増えた。リーマンはこのとき破綻した投資銀行では最大の規模だった。金融危機の発生である。銀行は自己資金を確保するため貸し渋りと貸しはがしが横行し、実体経済は縮小した。

これと同じようなことが、2023年に発生するかが懸念されているのだ。

いま、インフレ抑制のため「FRB」が金利を引き上げた結果、住宅ローンの金利は平均で7%にもなっている。サブプライムローンの上昇時の金利は20%から30%だったので、まだこの水準には程遠いが、これからロシアリスクの拡大でインフレが再度悪化すると、さらなる金利の上昇もあるかもしれない。

また、インフレが賃金の上昇率を越ているため、アメリカ人の実質賃金は8.5%も低下している。これは住宅需要を押し下げ、価格が下落している。これは自宅を担保に安い金利のローンへの組み替えが難しくなるため、金利の支払いができなくなるローン破綻者も増えるかもしれない。

現在でも「CDO」は、有力な金融商品である。ローン破綻の増加が「CDO」の破綻につながるという過去の構図が繰り返されることはないのだろうか?

長期の不況に突入する可能性が高いいま、こうした新たな金融危機の懸念が叫ばれているのだ。

Next: 予想以上に状況は悪い?注目されるアメリカ住宅市場の動向

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