韓国社会では、既得権益がはびこっている。これまで、規制改革が行なわれないどころか、既得権益拡大さえ行なわれてきた。その最たる例が、「労働組合」である。経済闘争から遊離した政治闘争を頻繁に行い、国民生活に弊害を及ぼす存在になっているのだ。世論の70%は、こういう労組に批判の目を向けている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2023年1月9日の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
既得権益がはびこる韓国社会、その最たる例は「労働組合」
韓国社会では、既得権益がはびこっている。
これまで、規制改革が行なわれないどころか、既得権益拡大さえ行なわれてきた。その最たる例が、「労働組合」である。経済闘争から遊離した政治闘争を頻繁に行い、国民生活に弊害を及ぼす存在になっているのだ。
世論の70%は、こういう労組に批判の目を向けている。
もちろん、労働組合は労働者の権利を守る有力な手段である。企業に対して、労働者の利益を代表して交渉する法的な地位が与えられている。その意味で労使関係は、良き緊張関係にあることが望ましく、労使のもたれ合いは忌むべきことであろう。
ただ、労組が違法行為によって企業を脅かす存在であってはならないのだ。
韓国の労働組合は、労使の緊張関係を超えており、あらゆることで企業と対決する道を選んでいる。それが、政治闘争への一環という位置づけになっているからで、「反企業主義」を前面に打ち出している。
これでは、賃金闘争名目で政治闘争を行なっていると言ってもいい状態だ。
貴族労組員121万人
ここで、最新の韓国の労働組合の状況を見ておきたい。
韓国雇用労働省が22年12月に公表した「2021年全国労働組合組織現況」によると、労働組合組織率は14.2%で前年と変わらない。つまり、韓国労働者の14%強が労働組合に所属しているだけで、後は未組織労働者という意味である。
全国の労働組合は、上級団体(全国中央組織)に所属している。それぞれの組織は次のような状況だ。
韓国労総:123万8,000人(42.2%)
民主労総:121万3,000人(41.3%)
未加盟(上級団体なし):47万7,000人(16.3%)
前記の中で、「貴族労組」とされる超戦闘的な労働組合は、「民主労総」である。組合員121万人で、韓国社会をかき回す存在だ。
民主労総は、文在寅(ムン・ジェイン)政権の保護の下で勢力を伸張した。民主労総が22年に掲げた目標は、国防予算縮小、米軍撤収、住宅50%の国有化にまでなっている。政治闘争が前面に出ているのだ。
民主労総は、朴槿惠(パク・クネ)政権を弾劾するきっかけになった「ロウソク・デモ」を繰り広げた原動力である。それだけに、文政権を生んだという自負心が強く、「何をしても許される」という錯覚を持つに至った。文政権も、民主労総の不法と暴力を容認して、労働組合が守るべき最小限の社会的責任も問わなかったのである。
現代製鉄唐津(タンジン)製鉄所の不法占拠、現代車蔚山(ウルサン)第4工場労働組合員の全州(チョンジュ)工場労働組合幹部暴行、金浦(キンポ)宅配代理店主を死に追い込んだいじめなど民主労総の不法行為は非常に多い。
文政権や民主労総の執行部は、以上の事態を放置したり、また助長したと批判されている。法治国家としてあるまじき行為が、労働組合運動の名において行なわれたのだ。
韓国政治が労働組合の暴挙を見過ごしてきたワケ
文政権は、なぜこのような違法行為を見過ごしていたのか。
それは、労組が韓国左派政権の維持に欠かせない支持勢力という認識であるからだ。左派は、文政権以降も「永久政権」として継続させる長期20年計画を持っていた。この超長期左派政権の手で、南北融和から南北統一の野心すら示していた。文政権が、北朝鮮に対してあれだけ融和姿勢を取った理由もここにあった。
民主労総は、政治目標として前記のように国防費縮小・米軍撤退などを掲げている。これは、文政権が北朝鮮接近と歩調を合わせたものと見られている。文政権にとっても民主労総の存在は、極めて好都合であったのだ。
これでは、民主労総の不法行為に対して取締りができるはずがない。
ただ不思議なのは、韓国警察が捜査に踏み切らなかったことだ。政府が止めた結果としか考えられないが、韓国司法は政治権力に対して「独立」していないことを端なくも示した。これが、韓国の前近代性と言える点である。